第14章 【兄は総毛立つ】
「だって母さんがお前から預かってるアルバム見てたから。」
「嫌やぁ、恥ずかしー。」
「恥ずかしい事なんかないだろ。母さんなんか可愛いって連呼してたよ。」
しかし美沙はいやいやと首を振り、枕から顔を上げようとしない。
「そらお母さんはそう言うてくれはるやろけどー。」
「俺も可愛いと思ったよ。」
力は言って自分のスマホを取り出し、写真ビューアのアプリを呼び出す。更にそこから呼び出された一枚の画像、紙の写真を無理矢理撮影したのがまるわかりのそれは中学生、それもおそらく1年生の女の子が写っていた。
「うそやー、かわい(かわいく)ないもん。」
一方の美沙はなおも足をバタバタさせながら言った。
「仮にそうやったとしても今はこのざまやもん、昔は昔やもーん。」
「まだ言うか、こいつは。」
さすがの力も軽くイラっとしてきた。枕に顔をうずめる義妹を無理矢理ひっくり返しこちらを向かせる。義妹は半泣きだった。そんな今の美沙とスマホの画像の昔の美沙を交互に見比べる。今時流行りの美少女の顔つきではない、自分の欲目ももちろんある。しかしそれでも力は思う。美沙は可愛い。
「うん、こりゃやっかむ奴はやっかむよな。」
「兄さん、何の話。」
尋ねる義妹、力は順番に答えていく。
「肌白くて、」
まずは義妹の頬をそっと人差し指で押してみた。次にその唇をなぞる。
「こんなちっちゃい口で、何も塗ってないのに紅くて」
力の人差し指はつつぅと義妹の顎を伝い、首筋をなぞる。くすぐったがりの義妹は一瞬身を震わせた。
「まつげも長いし。」
「抜けて目に入った時がかなん(かなわない)けど。」
「というか目だよな。」
「兄さん、つまり。」
力は最後だけ明確に答えなかった。答えにくかった、が正確かもしれない。義兄である自分を見る大きめの目、中学1年の写真と変わらないそれは人を疑うことをあまり知らない目だ。少し罪悪感を覚えた力はその義妹の小さな唇に自分の唇を重ねてごまかした。自分は本当に悪い奴だ。そこでふと思う。
「美沙、」
「なーに。」
「お前、本当にこっちくるまで野郎にちょっかいかけられたとかないの。」
「ないはず。あ、ちょお待って」
美沙は急に何か思い出したようだった。