第14章 【兄は総毛立つ】
「及川さん時はいっぺんとんずらしてもたよ。」
「その後はなんやかんや言いながらも相手してるよね。」
「そらまぁ別に意地悪されてへんし。」
「山本君の時は怖がって逃げたってのがなかったし。」
「だってあの人ノリが田中先輩と西谷先輩と同類やったもん。」
「灰羽君と犬岡君の時も乗っかってたよね。」
「日向の友達や言うし無下(むげ)にしづらくて。」
「つまりそういうことだよ。」
力が言うと美沙はえーと、と考えるそぶりを見せ、力は思わず笑いながら言ってやった。
「俺なんか典型だけど、お前早々の事じゃ逃げないから何か安心するんだよな。」
「そうなん。」
「うん。何というか、」
ここで力は義妹の髪を撫でる。
「いつもそこで待っててくれる、みたいなのがあってさ。」
そんで、と力は続けた。
「今美沙が相手してる人は直感的にそれがわかるんじゃないかな。呼べばお前は大抵応えるって。でもね、」
ここで力は体を起こし、今度は義妹の頬をそっと撫でた。
「本当に逃げなきゃいけない時はちゃんと逃げてくれよ。」
「兄さん。」
「お前どうかするとそれすらしなさそうで心配。」
「そんな」
「後ね、」
力は付け加えた。前からこれは言っておきたいと思っていたのだ。
「お前変に見た目のコンプレックスあるみたいだけど考え過ぎ。」
美沙はガンッという音がしそうな顔をした。
「せせ、せやけど兄さん、大抵可愛くない、ブスて言われるんやけど。実際美人でないんは確かやし。」
「それもさ、ずっと思ってたんだけど言った奴の中にやっかんでたのが絶対いるよな。」
「まままままた何で。」
美沙からすると余程意外なのか面白いくらい動揺している。
「お前今でこそ洒落っ気ないから見た目地味だけどさ、昔の写真見たら可愛いかったよ。」
「ああそう、って、ふぎゃああああっ。」
美沙は突如声を上げ、力の枕に顔をうずめた。
「どうした。」
「何で昔の写真なんか見てるんよー。」
足をバタバタさせながら言う美沙、語尾が伸びている。甘えたモードのスイッチが入ったようだ。