第13章 【音駒との邂逅 終幕】
「言ってくれるじゃねーの、妹ちゃんよ。」
珍しく自分から目を合わせて言う美沙を黒尾は面白がる。美沙を抱く力の腕にまた少し力がこもった。黒尾はそんな兄妹の様子を見てそーかそーかとしみじみしたように言う。
「だけど妹ちゃんよ、顔に似合わずひでえ兄貴じゃねえか。そやってお前を他の奴から遠ざけようと躍起になって縛りつけて。」
あからさまな黒尾の挑発、よくない兆候だと内心ハラハラしている力が義妹の横顔を見つめている。
「私は縁下美沙です。」
黒尾に目を合わせて美沙は言った。黒尾はまた面白がってほお、と目を細めた。
「それと兄さんにひどいこと言わんといてください。」
抱っこされたままで無意識に力を庇うような仕草をする美沙を見て黒尾の笑みが深くなった。
「そーゆーことか。」
「あの、黒尾さん、一体」
「お前らお互い依存してんだな。」
縁下兄妹は同時にうっと唸った。
「兄貴の方が目につくからアレだけど妹も重度のブラコンだな。」
「余計なお世話や。」
「美沙、やめな。流石に失礼だよ。」
しかし黒尾は気を悪くはせずやはり面白がっていた。
「見た目によらずなかなか言うじゃねえの、ギャップ萌えって奴か。山本とリエーフがハマったのはこれだな。」
黒尾は更に美沙に手を伸ばそうとするが美沙が反射的にそっぽを向き、義兄の力もそんな義妹を後ろに庇う。
「冗談だ、怒んなって。」
「勘弁してください、ただでさえそちらの灰羽君が美沙を掴んだりして気が気でなかったんですから。」
「壊れるとでも思ったのか。」
「少しだけ。」
ハハッと黒尾は笑った。
「壊れてんのはお前だろ。」
「自分でもそう思いますよ。」
「ついでだ、もう一個。美沙ちゃんのリボンは本人の趣味か。」
美沙は目を伏せる。それが答えになった。
「そこまでするかね、おにーちゃんよ。」
「俺の妹ですから。」
やや開き直ったように力が返す。
「それより黒尾さん、」
「心配すんな、他には喋んねーよ。あ、研磨は十中八九勘付いてやがるから諦めろ。」
「恩にきます。」
「おおきに、もとい、ありがとうございます。」
「いいってことよ、つかこんなおもしれーこと他には言いたくないね。」