第12章 【音駒との邂逅 第五幕】
一種の興奮状態になっていたのかどれくらいの時間が経ったか美沙はよく分からなくなっていた。それは当の2チームも同じ事かもしれない。気がつけばそろそろ時間ということで練習試合は打ち切られ、両チームともミーティングに入り、美沙はカメラを止めて1人ゴソゴソと片付けにかかる。とは言うもののこっちの片付けは大してかからず、美沙は下が完全に終わるまで二階でおとなしく待っていた。本当は寝てしまいたかったがまさか他校が来ていてそれはないことくらい半分ボケでも承知である。時折こそっと義兄の力の顔を盗み見ながら美沙は時間が過ぎるのを待った。
やっと事が一段落つき、義兄の力に手伝ってもらって荷物を降ろし、自分も二階から降りた時である。
「美沙ー、こっちこっちー。」
日向に呼ばれた。今日はよく呼ばれる日である。
「美沙、こいつが研磨。」
日向は一緒にいたプリン頭の約1名を指す。視線をそらしているところに美沙は軽く親近感を覚えた。
「ああ孤爪さんですね、初めまして。お噂はかねがね。」
「こっちも、話聞いてる。縁下、美沙さん。」
「聞いてる言うことは」
美沙はここでチラと日向を見る。日向はそっぽを向き口笛を吹いていた。
「やっぱりあんたか、ええけど別に。」
「気にならないの。」
孤爪が不思議そうに言う。孤爪が目を合わせてきたので今度は美沙が目をそらしてしまった。
「この学校に来た当初はあまりばれたくないなとか思ってたんですけど、縁下姓で来てる以上兄との関係がわかるのも時間の問題だし、私や今の家族が悪い事してこうなったんじゃないし今はいいやって感じです。」
「強いんだね。」
「いや、別に私は。」
「俺ならきっと、そんな風に割り切れない。」
孤爪が目を伏せ、今度は美沙が視線を上げる。交代で目をそらす様に周りの連中がクスクス笑っていた。
「私は不器用で、兄さんみたくバランス取ることが出来ないから、そうなったら悪い事してない限りは自分のままで突っ走るしかなかっただけです。」
「それが当たり前に出来る人なんだね。」
「孤爪さんだって」
「研磨でいい。」