第2章 【ままコon air】
「私もそう思います。遠くの親戚より近くの他人とはよく言ったもんですね。」
"おい、ハンネの話どこいった"
「あ、ごめんなさい。つまり引き取られた継子(ままこ)だからままコってしました。」
"まんまじゃねーかwww"
"まんまwww"
"そのままwww"
「だって思いつかへんかってんもん。」
"関西弁いただきましたー"
"なんにせよ主、良かったな"
「はい、ありがとうございます。」
美沙は画面の向こうの知らない誰かに話し続けた。初めてのネットのライブ配信で緊張していた為、周りに対する注意が散漫になっている。そしてそれは必然的に放送事故と表現できるものを引き起こした。
「んで、私その漫画すっごく好きだったんですけど多分本誌の連載打ち切られちゃったんでしょうね、全2巻まででした。残念です。」
喋り慣れてきて好きな漫画について語っていたタイミングだった。
「何やってんの。」
後ろから聞きなれた野郎の声がした。美沙は思わずふぎゃああっと叫んで椅子から飛び上がる。途端に配信画面のコメントが盛り上がった。
"なんだなんだ"
"主どうした"
"何か男の声したぞ"
"彼氏か、主はリア充か?!"
"つかふぎゃああってwww"
画面の向こうのやつらは好き勝手にコメントしているが美沙はそれどころではなかった。本当ならすぐにでもアプリで音声配信を一時的に切らなければいけないが動揺してそこまで気が回っていない。
「にににににに、兄さんっ、いつの間にっ。」
「言っとくけどノックしたよ、よほど夢中で聞こえなかったんだな。」
美沙はあわあわするしかない。しかしここでそうだ、とりあえず音声切らなあかんとやっと思い至り、スマホの画面を操作しようとする。画面では好き勝手なコメントが流れていた。
"兄さんっ"
"噂の兄貴キター"
"ままコさんのお兄さん、ちっす"
"お兄さん、妹さんをください"
"親フラなら聞いたことあるけどまさかの兄フラ"
"お兄さん、初めましてw"
これはあかんと思った美沙は音声配信を停止するボタンをタップしようとした、が、後ろから来た義兄の手に止められてしまった。何故と問う間もない。スタンドに支えられ机に置かれた美沙のスマホの画面を見つめ、義兄の力はにっこり笑う。そして力はとんでもないことをした。