第11章 【音駒との邂逅 第四幕】
「多分、止まらないと思う。」
「やっぱりそっち方向かいっ。」
芝山に困った笑顔で言われてしまい美沙はこらアカン、と思った。
「ああっ、もうっ。」
結局押されてしまう人の良さととっとと開き直るところが縁下美沙である。
「灰羽君は」
「リエーフ。」
「へ。」
「リエーフって呼べ。」
どアップで言われて美沙は内心パニック寸前だ。日向にすら苗字で呼ぶなとは言われた事がなく、谷地相手でも名前呼びをした事がない。まさかの状況にこれまた困ってしまう。しかしこれ以上の抵抗は無理と判断した。
「り、リエーフ君は」
「君付けかよ。」
「深くない事情があってあんまり人を名前呼びした事ないねん、勘弁したって。」
灰羽はむーと口を尖らせるが美沙があうあうとしている様子から流石に考えたのかま、いっかと譲歩した。
「えと、リエーフ君はスマホ持ちなん。」
「おうっ。」
「こんな感じのメッセージアプリ使(つこ)てる。」
「使ってる、入ってる。」
「ほなこれ、スキャンして。」
美沙はウエストポーチから取り出したスマホの画面を灰羽に見せる。が、灰羽は首を傾げた。
「これ何だ。」
美沙のスマホの画面に表示されているのはよく携帯電話やスマホのカメラ機能で読み取って使われるQRコードと呼ばれるものだがどうやら灰羽はこのメッセージアプリでの使い方を知らないらしい。横から覗き込んでいる犬岡と日向も頭上にクエスチョンマークが浮かんでそうな顔をしていた。
「ああそうか、ごめん。」
自分にとっては当たり前なのですぐこれだ。美沙は取り急ぎ操作説明に入った。
「えっと、アプリ起動、その他、友達追加、QRコードで行ってみて。」
「カメラになったぞ。」
「それで私のスマホのこれを読み取る。」
「あ、友達追加出来たっ。」
リエーフが声を上げ、横で見ていた日向と犬岡もおおおおお、と声を上げた。