第11章 【音駒との邂逅 第四幕】
そうして山本が夜久に蹴られ、田中が菅原に首根っこを掴まれ、義兄の力は成田と木下にはいはい重度のシスコン患者はこっちと背中をぐいぐい押されて回収されたる後(のち)に練習試合が再開される。
美沙はもちろん体育館の二階に戻り、撮影を続ける。少し目が慣れてきたか何となく目でボールを追えるようになった気がする。それでも日向と影山の速攻はまともに見えず、バレーボールをやらない美沙でもこれは普通のレベルでない事はすぐわかる。そして距離があってカメラ越しでもわかる音駒の卒のなさ、安定感は脅威だ。疑いもなく思った、彼らは強いのだと。
一方で美沙はまた隙を見てウォームアップゾーンに目をやった。義兄の力他4名、声を上げて応援している。
「兄さん。」
思わず呟き美沙はハッとして片手で口を押さえた。カメラのマイクが拾っていないことを祈る。
そんなドジを踏んだとはいえ更にカメラを回し続け、液晶画面を見つめつつ、バッテリーが切れかけたりメディアの容量が不足してくると素早く交換を繰り返す縁下美沙の顔つきは真剣そのものだ。兄さんが自分を信じ、それを他の人も信じて任せてくれた。依頼された事は完遂せねばならない。薬丸の頃からその辺の真面目さは定評があった、故にいいように使われる事もしばしばだったけど。
さて、撮影を続けているうちに山本が先の試合よりもパワフルになっている。ひょっとしたら自分が褒めた(思った事を言っただけだが)せいか、烏野側には悪い事をしたかもしれない。が、烏野側も田中が呼応するように調子を上げているので同じ事か。撮影しながら自分の息も詰まってくる心持ちがした。そしてふとまたウォームアップゾーンに目をやった。決して言わないが思ってしまう。腐らず声を上げて応援している背番号6番のあの人が、もしコートに入ったらどんな感じなのだろうかと。