第10章 【音駒との邂逅 第三幕】
「すっげーっ、あんたマジすっげーなっ。」
勢い余ったのかさっきまでの丁寧語が吹っ飛んでしまった山本がずずいと美沙に近寄った。
「何語喋ってんのか全然わかんなかったけどすげーのはわかったっ。」
「あ、いやそんな。あの、すごいと言えば山本さんのさっきのスパイクすごかったです、はい。」
美沙が言った瞬間、山本はぐはっと声を上げてこいつ昇天するんじゃないのかと思うくらい仰け反る。
「女子に、褒め、られ、たっ。」
「兄さん、私なんか悪い事言うたやろか。」
「大丈夫だよ、田中が清水先輩にはたかれて喜ぶみたいなもんだから。」
「待てゴルァ、縁下ぁぁぁぁぁぁぁっ。」
「それ若干アカン人やん。」
「縁下妹っ、おめーもかぁぁぁぁぁぁっ。」
「私はええんやけど兄に苦労かけんといてくださいね。」
「ぐっ、くそ、兄妹揃ってっ。」
「美沙さんっ、最初ん時は悪かったっ。アンタマジ天使だっ。」
「ふぎゃあああああっ。」
「馬鹿、虎っ、縁下妹に触んなっつったろ、死ぬぞっ。」
もう無茶苦茶である。休憩しているのかわざわざ疲れているのかわからない。
「何なのあれ。」
美沙は知らないが菅原が呟いていた。呆れたような言い方だが顔は笑いを堪えている。
「美沙ちゃんは何かとネタになるな。」
東峰も笑いながら言う。
「縁下には悪いけど流石青城の及川に一瞬ウロウロされただけあんのかなー。」
「うーん、確かにちょいちょい面白い子だけど。」
当の縁下美沙は困ったように笑いながらうかうか義妹の手を握った山本に突進しかねない義兄の側に寄り添っていた。
次章に続く