第10章 【音駒との邂逅 第三幕】
「あ、山本君、うちの美沙。」
「音駒2年の山本猛虎ッス、よろしくお願いしあっすっ。」
「え、えと。」
状況を理解していない美沙は混乱する。力はまたも笑えるくらいビシッと気をつけをしている山本を指して言った。
「お前と友達になりたいって。」
「へ。」
先の事があったので美沙は首をかしげるが嘘ではなかろうとすぐに切り替えることにした。
「えと、改めまして、縁下美沙です。その辺にいるただの約1名です。」
「美沙、嘘つくんじゃない。」
「何でっ。」
「ただもんじゃないんスかっ。」
「何で犬岡君とおんなじとこで食いついかれるのか。」
「犬岡と一緒。」
山本が頭を抱える。
「まあそうがっかりなさらず。被ることだってありますって。」
美沙は特に意図もなく言ったがこれが灰羽の時のように面倒な事になった。山本がぶわっと泣き出したのである。
「えっ、ちょっ。」
美沙は慌て、思わず義兄の方を振り返ったが義兄は面白がっているのか笑っているだけで放置している。
「初対面の女子に優しくしてもらったの初めてッス。」
「いや、えと、その。」
どないしょうと美沙はおろおろしたが義兄は放置しているし他の助けも借りようがなさそうだ。
「なんかあったんですか。」
とりあえず聞いてみた。山本はしばし躊躇った様子を見せてからポツリと言った。
「よく怖がられるんス。」
「ありゃま。」
美沙はどっかの背番号5番が1年の女子に教室教えてやったら泣かれたという話を思い出す。
「大変そうですね。」
「うう。美沙、さん、は怖くないんすか。」
「いや別に。」
美沙は答えた。最初のアレはよろしくなかったが山本のノリはどうやら田中や西谷と変わらないようだ。美沙としては特に怖がる理由がない。
「天使だっ。」
「何でやねんっ。」
思わず関西弁で突っ込んでしまった。オタクで動画投稿者で肩からガジェットケースを下げている(今日はウエストポーチだが)天使がいてたまるかと美沙は思う。天罰を食らいそうだ。