第10章 【音駒との邂逅 第三幕】
カメラのバッテリーを気にしながら撮影を続け、美沙はちらとウォームアップゾーンに目をやる。そこでどうしても目がいってしまう背番号6番、兄の力、美沙にはその背中から何もうかがい知る事は出来ない。兄が思うところはきっとあるだろうけどおそらく自分でもそこだけは知る事は出来ないと美沙は思う。きっとそれは自分ではわからない色々複雑なもの、自分が触ってはいけないものだ。それは他に待機している2番、12番、7番、8番も同じ事だろう。美沙は彼らに過去何があったのか今も詳しくは知らない。美沙には隠し事をするなと言いながら兄の力は自分のことを含めて美沙に一切話をしていなかった。美沙も無理に聞きはしていない。今はそれでいい。
映像記録は続く。画面のバッテリー表示が点滅している。切っても大丈夫そうな一瞬を狙って美沙は素早くバッテリーを交換した。更にカメラの様子を見ながら2階の柵から身を乗り出し、食い入るように試合の様子を見つめ続けた。その間、兄の力がコートに入ることはなかった。
こてんぱんではないが結局烏野がやられたところで一旦休憩に入った。
さてここで縁下兄妹の兄、力は困っていた。音駒の山本に話しかけられてしまったからだ。
「あああああの、」
「何。」
「縁下君て。」
「えと、俺だけど。」
「その、聞きてーんですけど」
何故か敬語でしかもここで山本は急に囁くような声で言う。
「いいいいい妹さんってどんな子なんでしょか。」
言われた瞬間力の顔から表情が消える。
「何で。」
「いやっ、別にっ、友達になりたいだけでっ。」
同い年のはずの力、その無言の圧力に押され山本は動揺した。
「地味で可愛くなくてもいいのかい。」
今度は笑顔で言われた山本はうぐっと言葉につまり、後ろで夜久が通りすがりにそら見ろ聞かれてるわ根に持たれてるわじゃねーか馬鹿、と呟く。
「あ、いや、えと」
山本は既に脂汗をかいている有様だ。何か言いたそうであるが完全に気圧されている。しばしためらいまくってから山本は言った。
「よく見たら、その、可愛いかな、みたいな。」
山本にしてはよく言えたものと思われるが、ここで今度はボソリと孤爪が言った。