第10章 【音駒との邂逅 第三幕】
さて、いつまでも阿呆な事を言っている訳にも行かず準備は進められて練習試合が始まった。縁下兄妹の兄はいつも通りウォームアップゾーンに待機、妹は2階からカメラを操作して撮影に入る。
「何か妹かっけーな。」
力と同じくウォームアップゾーンで待機している木下がちらと美沙を振り返っていった。
「うん、雰囲気が職人っぽい。」
成田も言う。
「映像は一応得意分野だからな、それなりに拘(こだわ)りっていうかちゃんとやろうって気概は持ってくれてると思う。」
力は答えた。
「つか本人はうまく撮れるか不安だとかなんとか言ってるけど俺は心配してないんだよな。」
「だよなー、税抜き120円以上の仕事する美沙さんだもんなー。」
木下がニヤリとする。
「何なのその金額。」
菅原が口を挟む。成田が説明すると菅原はお前ら何やってたんだと苦笑した。(詳細は第一部 8章と9章を参照のこと)
「というか縁下、出演させたり編集させるならもっと報酬上げてやれよ。」
「愛は与えてますよ。」
「それってプライスレスじゃ。」
山口がおずおずと語尾を疑問形にして言ったため、控えてた連中は力を除いてブブブと笑いをこらえる羽目になった。
「山口、美沙から何か入れ知恵されたのか。」
「え、いや別に何となく。何でですか。」
「突っ込み方が似てた。」
俺も影響されたのかなぁと笑う山口に力はまったくもうと呟いた。
長すぎる茶番は置いておいて練習試合開始、美沙はカメラで出来る限り追い続けた。
練習試合と言えどここまで熱いとは知らなかった。たまたま美沙は公式試合がまだ始まっていない時期に烏野に来ており今まで試合を見に行った事がない。だがこの光景は撮影しつつ上から見ているだけでも高揚する。犬岡君てほんまに早いな日向が言うはずや、あのプリン頭の人孤爪さん言うたかうまいことやってるんが何となくわかる、あ田中先輩がスイッチ入った、東峰先輩パワーどんだけやねん、灰羽君でかっ遠くから見とるのにでかっ。
頭の中に色々思うところが巡る。影山が日向にトスを上げた。見えへんっと美沙は思った。あいつらバレーボールはほんまに変人レベルなんやな、と考えた所でそいつらに変わり者扱いされている自分は何なのかと一瞬だけしょぼんとなった。