第9章 【音駒と邂逅 第二幕】
「でもよ、全然似てねーな。おまけにさっきお前らとしゃべってるのちらっと聞いたけどおもいくそ関西弁だったぞ、本当に兄妹かぁ。」
「まぁ色々あってだな、気にしないでくれ。」
既に孤爪から音駒の一部に話が回っていることを知らない澤村は何とかこれ以上話が進むのを止めようとする。だがそこへ澤村の努力をあっけなく水の泡にする会話が響いた。
「おい翔陽、あそこのカメラ弄ってる地味リボン誰。」
音駒の1年、灰羽リエーフである。
「あいつ、美沙。最近うちの縁下さんの妹になった奴。試合ビデオに撮るのに今日だけ来てくれたんだ。」
「妹になったって何だ。」
「他所んちの子から縁下さんちの子になった。」
「意味がわかんねー。」
「俺もわかんない。」
灰羽に合わせて同じく音駒の1年、犬岡が首をかしげる。
「わかんなくねーよ。なー、美沙ー。」
「何か言うたー。」
「美沙は後から縁下美沙になったんだよなー。」
これが聞こえた澤村は日向を注意しようとしたが、当の美沙は落ち着いたもんだった。
「そーや、そのとおりや。」
灰羽と犬岡は当然全く意味がわからず首を傾げる。
「何、後から名前変わるって嫁にもらわれたのか。」
案の定灰羽の方は不思議解釈をした。これはあかんと思った美沙は一旦梯子を伝って下に降りてくる。そして人見知りの癖にこいつは身長が190センチもあるデカブツの前まで歩み寄り早口でまくし立てた。
「私が生まれた時にはもう両親が亡くなってた、その後ばあちゃんに育ててもらったけどばあちゃんも亡くなった、親戚は誰も引き取ってくれない、そしたら母さんのお友達だった縁下さんちに引き取られた、そんで名前が薬丸美沙から縁下美沙になって学校も変わった、今ここ。」
いつもどおり悲劇ぶる様子はなくしかし早口で述べられた内容を聞かされた瞬間、灰羽と横で聞いていた犬岡の目からぶしゅっと塩水が噴き出した。
「マジかっ。」
灰羽が叫び、
「すっげえっ漫画みてぇっ。」
犬岡も声を上げる。一方目を合わせていない美沙は2人の目から塩水が噴き出したことに気づかず、更に言いたかった事を灰羽に向かってベラベラと喋る。