第9章 【音駒と邂逅 第二幕】
「よろしく頼むわ。」
直井はあ、ああと呟くがまだ動揺を引きずった様子だった。
後で美沙は武田ではなく烏養に怒られた。
「ったく、いくら本当の事だからって状況考えずに口にすんじゃねぇっ、向こう困ってたろーがっ。」
「すみません。」
「烏養君、さすがにその辺で。」
「先生、こいつぁ半分ボケでも全く話がわからん訳じゃねーだろ。逆にちゃんと言ってやらねえと。そんでまだ話は終わってねーぞ、縁下妹。」
「うう。」
「ホントおめーは。いや、おめーらは、だな、兄妹揃って自分らの事になると訳わかんねーことしやがって。」
烏養はやれやれとため息をついた。
「仲良いのも程々にしろよ。」
「はい。」
美沙は返事をしたがその義兄が最近やるようになったのと似たぼやけた笑みを浮かべた。心配してくれてるのにごめんなさい烏養さん、と心の中で思う。もう遅いんです。
美沙がこうして大人達と話をしていた時である。
「うおおおおっ。」
後ろでは音駒高校男子バレー部2年の山本猛虎が吠えていた。
「ま、また女子が増えてるっ。綺麗系っ、可愛い系っ、と、えーと、地味系。」
一通り吠えてから最後を疑問形にして山本は呟く。
「あれ何だ、あんまりときめかねえ。」
ここで外見に触れられるのが嫌いな美沙が聞きつけて山本を軽く睨み、フンッとそっぽを向く。
「何だあいつ、マジ可愛くねえ。」
「ちょちょちょ、おいっ、虎っ。」
ここで田中が大慌てですっ飛んできたかと思えば友にシーッシーッと言う。力の耳に入ったら確実にまずい。事情を知らない音駒の連中はプリン頭の一名を除いてなんだなんだと顔を見合わせた。
「お、おう、龍、何だどうした。」
当の山本も友のただ事じゃない様子に気づきヒソヒソと尋ねる。
「いーか虎、あの女子の扱い気ぃつけろ。顔の事言ったり悪口言ったりしたらとんでもねえことになる。」
「あの地味系女子なんなんだ。」
「うちの縁下、6番、の妹だ。今日ビデオ撮ってもらうのに無理矢理来てもらったんだが、あいつが妹になってから縁下がすっかり入れ込んでてよ。妹を悪く言ったりうっかり触ろうもんなら兄貴の方が滅茶苦茶怒るんだよ。」
「妹っ。」
山本は驚いてこっそり力と美沙を交互に見比べる。おそらく顔が全く似てない事が気になるのだろう。