第9章 【音駒と邂逅 第二幕】
烏野のメンバーも揃い、音駒の一行も到着したところで早速第二体育館のあちこちが賑やかになった。
「けんまーっ。」
「翔陽、久しぶり。」
「虎ーっ。」
「おお、龍ーっ。」
「よお、澤村。」
「久しぶりだな。今日もよろしく頼む。」
が、人見知りがひどい縁下美沙はどうしたものか困っていた。義兄は義兄で当たり前だがチームメイトや向こうさんと話をしているし谷地は清水と一緒に作業中な訳で居場所がない。窮して二階に避難しようと梯子を登りかけると大人組の話し声が聞こえた。
「おや、武田先生、あちらの生徒さんは。」
音駒の監督である。
「ああすみません、ご紹介が遅れて。美沙さん、こっち来てください。」
武田に呼ばれた美沙は登りかけた梯子から降りて小走りに大人達の方へ行った。
「1年の縁下美沙さんです、部員ではないんですが今日だけ撮影に来てもらいました。」
「あ、え、縁下美沙と申します。兄がお世話になってます。今日はよろしくお願いいたします。」
人見知りがひどい美沙は足をガクガクさせながら食えない雰囲気のじいさん監督とどうやら烏養の知り合いらしいコーチのにーちゃん相手に何とか挨拶をした。妙に話し方が固いのはこの際仕方あるまい。音駒の監督はおやお兄さん、と美沙の言葉を逃さない。
「あそこの2年の、ウィングスパイカーが兄の力です。」
猫又監督と直井コーチは向こうにいる力と美沙を交互に見る。縁下美沙になってからしょっちゅうだ、大体何を思われているか見当がついた。
「顔は似てないけど兄妹です。私、親も祖母も他界して養い子になったもので。」
音駒側が何かをぐさりと突き刺されたような顔をし、烏養が馬鹿お前っと声を上げる。直井コーチは激しく動揺し猫又監督は年の功か騒ぎはしなかったがううむ、と唸った。
「美沙さんっ、」
これまた狼狽する武田が美沙に囁く。
「駄目ですよ、そんなにペラペラ喋ったら縁下君も困っちゃいますよ。」
「すみません、それを全く考えなかった訳やないんですけど変に勘繰られたら嫌やったし私も今の家族も悪い訳やないし。」
「ま、まぁそういった訳だ。」
取り繕(つくろ)うように烏養が言った。