第65章 【強制隔離宣言?あるいは花火の思い出】
言っている間に一行は目的のポイントにたどり着いた。なんたって花火だ、大勢の客が犇(ひしめ)いている。烏野男子排球部の一行プラス1名は何とかお互いはぐれないように懸命である。その中でやはり縁下美沙は義兄の力に握られていた。あれほどおちょくられても力はそこを譲る気はないらしい。ちょお痛いと言っても今は我慢してと言われる。
「あの兄さん、」
「過保護は今更だからな。」
「開き直っとうしっ。」
近くにいた谷地と山口がぶぶぶと堪えながらも笑っており、木下と成田はもはや苦笑するしかないようだ。
「成田、あれはもう放置か。」
「だな。少なくとも今日はもう言っても聞かないだろ。」
「あっ。」
日向が叫んで一行は足を止めた。全員の目に飛び込んできたのは華やかな光、そして耳には大音響である。早速田中と西谷が雄叫びをあげて澤村に怒られる。谷地が素敵と呟き清水が微笑んでいる。東峰はしみじみとして菅原にいくつだよと笑いながら突っ込まれる。飛び跳ねかけた日向は影山に跳ねるなボゲェッと言われて頭を押さえつけられる。月島は冷めたような目でそれを見つめているが山口にツッキー楽しそうだねと言われる。その間に次々と花火は形を変え色を変えて夜空を鮮やかに彩る。成田と木下はまぁ普通に見ていたがふと成田が縁下兄妹の方に目をやり木下を肘で小突いた。何だよと言う目をして成田を見た木下は仲間の視線の先に気づいて頷いた。コソコソと木下は菅原に耳打ちをして菅原がニヤッとする。たちまちのうちに菅原は率先して他の連中に声をかけた。縁下力と美沙の周りにいた烏野の連中はそおっと後ろの方に下がっていく。日向と影山はキョトンとしているがスルーの方向とされた。
そんな事に気づかず縁下兄妹は夜空を眺めている。
「兄さん、めっちゃ綺麗やね。」
「そうだな。こういうのも初めてかい。」
「うん。」
「じゃあ来て良かったな。」
美沙はまたうんと呟いてそっと義兄の方に身を寄せる。力はそっとその肩を抱いた。もう後で仲間におちょくられる事は覚悟の上だ。花火を見つめる美沙は叫ぶ訳ではなくとも本当に嬉しそうでつい力はその頭をポンポンとやる。