第61章 【強制撮影宣言あるいは早すぎたもの】
そうして夏祭り当日である。先に浴衣に着替えていた力はソワソワしていた。義妹の美沙が母に手伝ってもらい着替えるのを待っているのである。まさかの浴衣嫌いだった義妹を説得、もとい嵌(は)めてまでの事なので余計に楽しみだったのかもしれない。和室の前で待つ事もうしばし、襖(ふすま)が開いてまずはニコニコして母が出てきた。すごく満足そうだ。少し遅れて義妹の美沙が顔を覗かせる。そおっとうかがうような様子、力はどうしたと声をかける。美沙は目を伏せてためらった様子を見せた。
「わろたらアカンよ。」
「笑う要素あるのか。」
「念の為。」
義妹は言ってそろりと出てきた。いつかのように力は思わずあっと声を上げる。
「似合ってるじゃないか。」
笑う要素などどこにあろうかと力は思う。母が娘の頃着ていたというその浴衣は柄が古典的ではあるが美沙には合う。言うなれば日本人形のような雰囲気か。髪には花の飾りをつけられ、それがまた華やかさを加えていた。ね、可愛いでしょと母も言った。娘が出来た故の楽しみを堪能した様子である。美沙は相当照れているらしく顔を真っ赤にして言った。
「お母さん、ありがと。汚さんように気ぃつけるね。」
よしんば不慮の事故で汚れても気にしなくてもいいと母は言う。
「せやけどこれわりとええヤツでしょ、プリントやのうてちゃんと染め抜いてる生地やもん。」
「染め抜いてる云々ってとても15歳が言うとは思えない内容だな。」
「ばあちゃんが言うてた。」
「なるほど。」
ついこの間まで祖母と暮らしていた美沙らしいと力は思う。そのまま兄妹はまだ早いけどそろそろ行こうとした。が、ここで母が写真撮らなきゃと言い出す。美沙は戸惑い力も苦笑した。
「そこまでするの母さん。」
母は頷く。こんなチャンス滅多にないだろうからと言い張る。流石自ら美沙を引き取りたがっただけのことはあるのか。庭で撮ろうと言う。
「じゃあ美沙、行っといで。」
「うん。」
ところが母は息子にも来いと言った。
「何で。野郎なんか撮っても仕方ないだろ。」
力は言いつつも母の子供達の思い出を残したいという思いに折れた。