第61章 【強制撮影宣言あるいは早すぎたもの】
兄妹と母は庭に出て早速母はまず美沙を一人立たせてコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)で撮影した。大変ウキウキしている母はあら可愛いと連発し、美沙はひどく照れてうつむきチラリと力に目をやってきた。力が微笑んで返すとまた目を逸らす。可愛いのは間違いないと思う力の思考は暑さにやられているのかもしれない。次に母は力を美沙の隣に立たせる。2人共もうちょっと寄ってと言われて力はうっかり義妹の肩を抱き寄せ、自分でしまったと思う。美沙もちょお兄さんと言いたそうな顔でチラリと見てきたが母が気づかなかったらしいのは幸いだった。
しばらく母は撮影を堪能し今はカメラの再生モードで撮ったものを見直している。力と美沙も横から覗き込んでこれ綺麗に写ってるとかこれいいな父さんにも見せたげようとか言い合っていた。が、ここでふと力と美沙を一緒に写したものを見た母の言葉に兄妹は揃ってギクリとした。母は言ったのだ、これこのまま若夫婦の写真でも行けそうね。
「ちょちょちょ、お母さんっ。」
「母さん、勘弁してくれよっ。」
母は冗談だと笑うが慌てる兄妹の胸中はおそらく知るまい。そのうちそろそろ本当に出かける時間が近づき、兄妹はいってきまーすと言ってそそくさと家を出た。
「あー、びっくりした。」
家からかなり離れたところで美沙が関西弁の抑揚(よくよう)で言った。
「お母さんえらいこと言わはるわ。」
「俺も心臓止まるかと思った。父さんどころか母さんにもバレてんのかと思ったよ。いや、どっちかってえと母さん冗談めかしてたけど結構」
「兄さんもそない思う。なんか本気入ってた感じやんな。」
「ああ。」
しばし兄妹は沈黙し辺りには2人の下駄の音がカランコロンと響くのみだった。
「美沙、」
力はふと日が傾きかけた空に目をやりながら呟いた。
「まだずっとずっと先だけど、もしホントに俺がそうなりたいって言ったら」
美沙がハッとしたように力を見て兄さんと呟く。
「お前、受けてくれるかい。」
力は勢いで言ってしまった。美沙の顔の赤さが先の母に可愛いを連発された時の比ではない。おまけにただでさえ慣れない浴衣で落ち着かない状態だった為かパニック寸前のようだ。