第60章 【強制浴衣宣言】
「誰が魔王に見えるって。」
「いや別に。」
「ごまかせてないから。こっちきな。」
「ふぎゃああああああっ。」
美沙はてっきりはたかれるか今日は腹筋多い目にするとかそういった展開になるかと覚悟した。が、
「何で抱っこ。」
「嫌ならやめるけど。」
「やっぱり意地悪や。」
「とか言いつつすりすりするんだからほんとツンデレだな。」
「知らん知らん。」
美沙は言って力の胸に顔を埋める。困った事になった。苦手な浴衣を着なければいけない。しかし力は完全にその気で義母もわざわざ探し出してくれたから逃げようがない。しばし力にスリスリグリグリしながら美沙はふと、ええもんねそれやったらと思い立った。
「兄さんも着るんやんな。」
「え、俺。」
「私に着せるんやから兄さんも着てくれんかったら拗(す)ねる。」
「お前に拗ねられるのは困るな。いいよ。」
「やった。あ、でも」
美沙はこれまたふと思ってうーと唸った。
「どうした。」
力に聞かれるが美沙は答えるのをためらった。大変に言いにくかった。うっかり浴衣を着た力を想像してついでに他の女の子に取られたらどうしようかと阿呆な事を思ったなどと、とてもではないが言えない。
当の力は無意識に自分の服を掴む義妹が何となく阿呆な事を思って1人勝手に悶々としている事に感づき、可愛いなぁと思っていた。
成田と木下が知ったら一旦妹から離れて転地療養しろと言ったかもしれない。
次章に続く