第58章 【落ちる未遂のオチ】
とりあえずその日の部活にて縁下力は菅原から知っている範囲で義妹の美沙に起こった話を聞いた。
「怒鳴っちゃったのはごめん。」
申し訳なさそうに菅原は呟き、力は大丈夫です、と答える。
「美沙もわかってるでしょうから。」
「お前ら兄妹揃って助かるわ。でも落ち着かないな、どうも前落としてきたのと同じ相手らしいし。」
「今回は前ほどダメージひどくないらしいんで親にも相談してもう少し様子を見ます。ただし三度目は勘弁してもらいたいですけどね。」
勘弁してもらいたいどころか本音としては三度目は許さないと言いたい所だが日向達もいる中で過激な事を言う訳にもいかない。そんな力に菅原はそうだなと呟く。
「ちなみに今日美沙ちゃんは。」
「今日は元々1人で帰る日でしたけど図書室で待ってると連絡来ました。」
「流石。でもホント対応に悩むな。」
「俺がわざわざ出向いてどうこうも言える内容でもなさそうですし。」
力と菅原は2人でうーんと唸った。
義兄の力達が唸っている一方、当の美沙は思わぬ事になっていた。図書室に行く途中、美沙を落とした本人とまた鉢合わせしたのである。とりあえず美沙は片手を上げて挨拶をし、相手は気まずそうに目をそらして足を止める。特に何も用事はないだろうと思い美沙がそのまま通り過ぎようとすると相手に呼び止められた。
「どうしたんだ。」
標準語で聞いてみると相手は怒ってないのかと聞いてきた。
「腹立たなかった訳じゃないけどそれよりしょんぼりした。」
美沙は正直に言った。
「私こっち来るまでも結構意味不明な事言われまくって困ってたからさ、またかって。」
ここでああそうだ、と美沙は思い出す。
「捨て子の薬丸ってどこで聞いたんだ。確かに私、前の名前は薬丸だったけど。」
相手は教えてくれた、他校に美沙と同じ中学だったという友人がいてそこから話を聞いたらしい。その友人というのも美沙と直接喋った事はない。ただ、親がおらずおばあさんと暮らしている関西弁の生徒は結構目立っていたので知っていたという話だった。
「私は捨てられたんじゃないんだがなぁ。」