第57章 【外伝 副主将の独り言】
言われた菅原はハッとした。泣かせた事について見透かされたのかとすら思う。だが美沙は気づいているのかいないのか淡々と話し続ける。
「さっきの子にも死ね言われました。せやけどそれは断りました。生き死にだけは決められたない。」
「よかった。でもあり得ないのわかってて聞くけど、もし縁下に死ねって言われても嫌だって言うの。」
「言います。」
美沙は即答した。
「たとえ兄さんでもそれだけは譲れへんです。」
ビビリですぐ目をそらす縁下美沙が菅原をまっすぐ見つめてはっきりと言う。
「もしホンマに万が一兄さんが死ね言うた時は私があの人に余程の事をした時でしょう。」
同じ内容がかつて影山飛雄にも語られている事を菅原は知らない。故に初めて聞かされた菅原はガーンと強い衝撃を受けた。そして思う。ああ、やっとわかったよ縁下。だからお前はこの子に夢中で守ろうと必死なんだな。
「今更だけど美沙ちゃんは強いんだな。」
「別に私は」
「言うと思った。」
笑う菅原に美沙はムスッとする。そうしているうちに2人は保健室にたどり着いた。
保健室でしばし美沙に付き合ってから菅原は3-4の教室へと戻る。戻る途中で縁下力にメッセージアプリで美沙が面倒な事になった現場に居合わせた事を知らせ、考えながら歩いていた。
俺は今まで縁下美沙ちゃんをわかってなかったんだ、と思う。前から縁下美沙には大事に思っている対象に仇をなす者に対して自分を顧(かえり)みずに突っ込んでいく傾向や逆に先のように相手に配慮しようとして行き過ぎる傾向があるのはわかっていた。しかしそれは縁下力の愛を受けながらも自分はいついなくなってもいいという思想が美沙の何処かにあるからだと思っていた。それは違ったのだ。
「ああ、そっか。馬鹿だな俺。」
ふと気付いた菅原は誰もいないのをいい事にひとりごちた。
「あの子死にたくないからこっち来たんだって縁下言ってたじゃん。」
3-4の教室に戻るとギリギリに戻ってきた仲間を澤村が心配していた。
次章へ続く