第8章 【音駒と邂逅 序幕】
「あ、あの、こいつ起き出したら早いんで大丈夫です。」
美沙が何か言う前に義兄の力がフォローする。烏養はそうかよ、と呟いて
「まーとりあえずは頼むわ、縁下妹。」
名前まではいかないにしても美沙は初めてまともに烏養から呼ばれた気がした。一時期第二体育館に留め置かれていた時は呼ばれてもおいとかお前としか言われたことがない。
「何だ、どーかしたか。」
普段ろくに人と目を合わせないくせにうっかりマジマジと見ていたら烏養に怪訝(けげん)な顔をされ、いえ何でもないですと美沙は答えた。
「とりあえず私準備します。」
美沙は言って二階へ続く梯子(はしご)へと向かう。
「足元気をつけろよ。」
力がボソッと言った。
「わかった。」
頷いて美沙は梯子に手と足をかけた。
とりあえず美沙は荷物を整理し、カメラをセッティングして一旦降りてきた。他の連中はまだ揃っていない、美沙が二階で準備している間に成田と木下は来ていた。
「美沙さん。」
少し手が空いたのか、谷地が声をかけてきた。
「あ、谷地さん。」
「今日はよろしくね。」
「うん、せやけどやっぱり何でこうなった。押し切られて受けてもた私も私やけどさ。」
谷地がアハハと苦笑する。
「大変だねえ。でも美沙さんなら私も安心だな。」
「谷地さんがそない言うてくれるんやったら助かるけど。ホンマ先生も澤村先輩もコーチもよう了承しはったな。」
「先生達も出来る人ならありがたいって感じだったよ。あ、烏養さんが若干怪しんでたけど。」
「せやろなぁ、兄さんが私を体育館に留め置いた時からこいつら大丈夫かみたいな顔してはったもん。」
美沙はため息しか出ない。しかし先にあったように依頼を受けてここまで来てしまった以上やるしかなかった。現・縁下美沙は薬丸の頃から開き直ると大体強い。