第8章 【音駒と邂逅 序幕】
「あれ、そういえば美沙さんリボンなんてしてたっけ。」
谷地がふと美沙の髪に結ばれていたそれを見て尋ねた。
「新しくゲットした。」
「へえ、可愛い。」
「ありがと。」
「あ、でも代わりに今日はブレスレットなしなんだね。」
「う、うん。腕輪は危ないやろからって。」
やや躊躇(とまど)った返事になったのは件のリボンが美沙自ら買ってつけたものではないからだ。
「どうせ自分で買ったんじゃないでしょ。」
「ゲッ。」
後ろから言われて美沙は思わず声を上げた。
「あ、月島君、山口君、おはよう。」
「お、おはよー、お2人さん。」
谷地に続いてたどたどしい挨拶をする美沙、月島と山口もそれぞれおはようと言い、月島は美沙をじっと見つめる。嫌な予感しかしない美沙は視線をいつも以上にそらした。
「あんたさ」
月島はいきなり言った。横にいる山口がツッキーッ、と小さく声を上げるが月島は例によって聞き流す。
「また何でうかうかお兄さんに買ってもらってる訳、あの人があんたにそういうのやる時って大抵別の意図があるのわかってるはずでしょ、何なの本物のアホの子なの学習能力ないの。」
思わぬたたみかけに美沙は慌てる。
「何で私朝っぱらから月島にお説教されとんの。」
「ツッキー、相当心配してるんだね。」
美沙はホンマかと月島をそうっと振り返る。月島は珍しく山口うるさいとは言わずにこう言った。
「そんなにお兄さんに依存してるといつか後悔するよ。辛い思いしたい訳。」
「えと。」
月島にしてはストレートだった為美沙は逆に返事に迷った。お兄さん絡みで何かあったのかと聞くわけにもいくまい。月島は即答しない美沙を見てまぁいいけど、と呟いた。
「あと今日知らない人いっぱい来るけど言葉大丈夫な訳。パニクると切り替え出来ないみたいだけど。」
いちいちもっともな事を言う月島に美沙はどうしたのかと思いつつも何とか頑張ると答える。
「あかんかったら諦める。」
「危なっかしいなぁ。」
月島が嫌な顔をして呟いた。