第8章 【音駒と邂逅 序幕】
そういう訳でとある日、世間では休みのところに烏野高校の正門をくぐる少年少女2人の姿があった。
少年は黒いジャージ上下に身を包み、肩には大きなリュック、朝早いのには慣れているのか足取りはしっかりしている。その隣を歩くのは学校指定のあまり格好良くない小豆色のジャージ上下の少女、朝弱いのか明らかに顔が寝ぼけている。肩にはやはりリュックを背負っている訳だが特筆すべきはウエストポーチをつけ、手には三脚とビデオカメラが入っていると思われるケースを提げている事だろう。
「ほら、しっかり歩いて。」
「あかん、眠い。ふあああーあ。」
「夜中に動画サイト見てたんじゃないのか。」
「今回は見てへん。」
「"は"ってその区別の助詞は何だ。」
「さて。」
「ごまかすんじゃない、てかごまかせてないから。」
言うまでもない、縁下兄妹である。
「大丈夫なのか。」
「そもそも何でこないなった。」
「言いながらも受けてくれるんだから助かるよ。」
「兄さんが外堀埋めて逃げられんようにしたんやん。」
「そうだったかな。」
「ごまかしとるっ。」
烏野高校男子排球部がまたも東京の音駒高校と練習試合をする事になった。(細かいことは気にしてはいけない)そこへ縁下力の陰謀でその義妹である美沙は休日に男子排球部の練習試合の撮影要員として引っ張りだされた訳だがとにかく完全インドア動画投稿者にこの朝の早さはきつい。美沙は歩きながらずっと欠伸(あくび)しっ放しで、義兄の力は自分が推薦しておいてアレだがホントに大丈夫かこいつと思った。
さすがと言うべきか、第二体育館には顧問の武田、コーチの烏養、主将の澤村他3年生と清水、谷地が来ていた。
「おはようございます。」
「おは、よーございます。」
兄妹は挨拶するが美沙の方は寝ぼけているのがまるわかりである。
「あ、縁下君、美沙さん、おはようございます。」
「あー、武田先生、どうもです。」
寝ぼけまくりで美沙は言う。
「すみません、無理聞いてもらって。今日はよろしくお願いしますね。」
「は、はい。」
武田に裏表なく言われては流石の半分ボケもしゃんとするしかない。
「おい、お前ホントに大丈夫なのかぁ。」
疑わしそうに言うのはコーチの烏養である。