第57章 【外伝 副主将の独り言】
「別に私は」
「間に合わなかったのかなって思ったけどそうじゃないよな。巻き込まないようにしてくれたんだろ。」
「だって菅原さん巻き込んで万一怪我させたら兄さんにも谷地さんにもほかのみんなにも顔向けでけへん。男バレはただでさえ人少ないのに。」
「ホント、そういう事を当たり前に言えるんだな。」
菅原は笑顔を作りながらも内心泣きそうだった。縁下美沙はいつもこうなのだろう。
別に菅原を責めたって良かったはずだ、アンタに何がわかる、自分の言い分も聞かずに勝手ばかり言うなと言っても良かったはずだ。だが美沙はそうしない。自分が傷ついても自分が同じ事を仕返す事はあまりない。今ならわかる、一度美沙が力や排球部の仲間を侮辱されたとブチ切れて相手に掌底打ちを入れそうになったり力と喧嘩をして家を飛び出したのは当人にとっては相当の事態だったのだ。
その美沙は涙で濡れている目で菅原を見つめている。自分も少し落ち着いた所で菅原は肉体的なダメージの心配をした。頭を打ったようには見えなかったが念の為確認すると本人的には大丈夫らしい。しかし腕と肩をしたたかに打った所を見た以上そのままというのはよくないと思った。
「念の為保健室行っといで。」
言うと美沙はうーと唸った。気が向かないらしい。何度か揉めて世話になっているからか。気が向かないなら向けるしかない。
「縁下に絶対聞かれるよ、行ってないなんて事知ったら何て言うかな。」
美沙はふぎゃああああっと叫ぶ。さすがブラコンと言うべきか、思わず笑ってしまった。
「縁下効果絶大だな。」
「とりあえずお気遣いありがとうございます。」
「じゃあ行こうか。」
「へ。」
間抜けな声を上げる美沙、同行されると思っていなかったらしい。
「菅原先輩、ちょお待ってください。」
待つ気などないので背中を押してやる。やはりギクリとした。気をつけないと壊れそうで怖い。
「ほらほら歩いて歩いて。」
「ちゃんと行くからっ、ごまかさへんからっ。」
ごまかしはしないだろうが菅原としては別の心配があった。
「途中からとはいえ見てた奴が一緒にいた方がいいだろ。ほっとくと美沙ちゃんは先生にろくに説明しないまま変な勘ぐりされかねないし。」