第57章 【外伝 副主将の独り言】
ところが
「別に、ドジっただけです。」
縁下美沙はあろうことかごまかして逃げようとした。本能的にカチンときた。自分は一線を越える前から義兄の力が美沙を溺愛し心配しているのを知っている。どれだけ2年仲間におちょくられようがどれだけ月島に呆れられようが、いやそれどころではない、コーチの烏養相手でも義妹愛を隠さないくらいだ。加えて前から力や周りを思うあまり美沙が自分を犠牲にする傾向も前から気になっていた。縁下美沙は唯一の存在で代わりなどいない、それを知らないはずはない癖に何かにつけて自分を切り捨てればいいと思っているように聞こえたそれは瞬間的に菅原の神経を逆撫でした。
何だよこいつふざけてるのかあれだけ縁下が自分の見えない所で泣いていないかとか知らない所でいなくなったりしないか心配してるのに俺らだって縁下の妹だしと思って気にしてるのに何なんだよそれ駄目だろこれ言ってやんなきゃ縁下が浮かばれないだろ。
腹に熱いものがこみ上げる。我慢出来ないと思った瞬間、
「隠すなっ、言えっ。」
縁下美沙に無理矢理こちらを向かせてこみ上げたものを一気に吐き出すように怒鳴っていた。
「何でそやって隠すんだよっ、悪い事したんじゃないんだろ何で自分を平気で捨てるような真似ばっかするんだそんな事したらまた縁下が傷つくぞあんだけ依存し合ってるくせにあいつがどんだけお前を想ってるのかまだわからないのかっ。」
まくし立てた後息が上がっていた。気をつけないと折れるかもしれない華奢(きゃしゃ)な両肩を強く掴んでいた。縁下美沙は何も言わずしかし普段は逸らしがちな目を菅原に合わせる。途端その瞳が潤(うる)んで涙が溢れ出した。ハッとする。菅原の前でこいつがこうなるのは初めてだ。基本的に人前では少し強がっていると聞く、そんな美沙が泣き出した。焦った。
「ごめん、」
菅原は呟き掴んでいた両肩を離す。何とか落ち着こうと努力をした。
「ついムキになった。それに俺、ほとんど見てたのに何も出来なくて。」
言いながら少し落ち着いてきた菅原はそうだと思った。美沙ちゃんと縁下が心配だったのも本当だけど自分が何も出来なかったのがいっちゃん腹立つ。