第53章 【眠り姫に差し入れを】
山口がしみじみと呟き、成田がニヤリとする。
「今頃青城の及川さんから見舞い来てるかもな。」
「ダメですよ成田さん、そんなリアリティのある事言っちゃ。」
「成田も月島もやめろよ、何なんだよいつもは特につるまないくせに。」
力はムスッとする。
「そんな日もあるよ。」
成田に言われると力としてはなかなか返しづらい。
「今日も平和だな。」
「旭ー、見た目以外も老けてきたのかー。」
「そりゃないだろ、スガっ。」
「ところでいい加減にしないとまずいな。」
澤村が呟いた。
「ホントだ、烏養さん縁下見てる。おーい縁下ー。」
呼ばれた力は菅原の視線で状況を理解した。
「まぁうちの美沙の事はともかくそろそろ休憩終わるな。」
野郎共はそれを聞いて力を弄るのをやめ、そろそろいい加減にしろと言おうとしていたコーチの烏養はその必要がなくなった。しかし勢いを削がれてモヤモヤしていた彼は代わりに顧問の武田に言った。
「先生、縁下ホントに大丈夫か。」
「え、何かプレイに影響しそうな様子でも。」
「ちげーよ、ほれ。」
「ああ、妹想いですよね縁下君は。」
「アンタに言った俺が馬鹿だったぜ。」
流石にそんな事までは知らない力は部活を終えて木下と谷地と清水から預かった差し入れを持って帰宅した。帰ると美沙は相変わらず寝てばかりのようで力はなるべく音を立てないようにそっと二階の階段を上がる。しばらく入っていない義妹の部屋の前で足を止めた。ドアを静かに、少しだけ開ける。
「美沙」
そっと呼んでみるが返事がない。当たり前かと思い力はそっと開けたドアの隙間から預かった差し入れを文字通り差し込んだ。