第52章 【治ったら】
「回復したら一緒に腹筋でもやりますかね。」
「お、いいじゃん。縁下と一緒なら美沙ちゃんも続くだろ。」
「縁下に威圧されりゃ妹も逃げらんねーしな。」
「田中、どーゆー意味だ。」
「ナンデモアリマセン。」
「何なのあれ。」
2年と1年と3年の一部がわいわいやる一方で月島が呆れたように言った。
「休んでても美沙さんはネタに事欠かないみたいだね、ツッキー。」
山口があははと笑う。
「とりあえずあいつが具合悪いか否かの指標が食欲だって事だけはよくわかったよ。」
「ツッキー、今度見てみるつもりなの。」
「何で僕がままコさんの体調気をつけなきゃなんないのさ、そりゃあそこのお兄さんの仕事デショ。」
「縁下さんも大変だね。」
「ホントね。」
月島は珍しく賛成した。
「妹取られないように必死で面倒見てそりゃ大変だよ。」
ちなみに主将の澤村とマネージャーの清水は縁下美沙については心配だが今日もみんな楽しそうだと黙って見守っていた。
一方美沙はそれどころではない。今も熱がなかなか下がらずベッドでうんうん唸っていた。幸いなのは昨日一番不安がっていたことを義母に吐き出し義母も応えてくれた為少し気が楽になったことだ。体調がまともでないから変な夢は何度も見た。しかし目を覚ませばとりあえず自分はまだ縁下家の屋根の下にいることが確かめられて安心する。食欲はまだない。食べたくないし何か口にしても胃腸がまったく受け付けなかった。薬も飲みつつとりあえず耐えようと思うしかない。ふと義兄の力の事を思った。昨日今日と力の顔をまったく見ていない。力にうつって更に男子排球部のメンツにうつっても困るから仕方ないがもう何日も義兄の顔を見ていない感覚になっている。美沙はここでまた少しだけぐすっとベソをかいた。早いとこ治ったら、と美沙は思う。
治ったら兄さんに抱っこしてもらお。うん、そないしょう。兄さんがびっくりしても今回は無視や無視。決めたもんね。
そうして美沙はまた眠りについた。スマホすら見ていないので時刻がわからない。その愛用のスマホは相変わらずサイドテーブル代わりになっている椅子の上に乗っかっている。いつも肩から下げているガジェットケースは椅子の背にかけられている。