第52章 【治ったら】
そしてガジェットケースの紐の端には美沙が好きなバレーボール漫画のキャラストラップ、更に100円ショップで売っているストラップに無理矢理くくりつけた指輪が下がっている。義兄の力からもらったそれは背番号6番のストラップの横でわずかな光を反射し揺れていた。
美沙がまた眠ってしまった頃、烏野高校は昼休みに入っていた。
「色々心配が重なるな。」
相変わらず人の来ない校舎の裏、弁当を食しながら菅原が言う。弁当の中に相当辛そうなものが入っているが突っ込んだら負けかもしれない。言われた縁下力はええ、と頷いた。
「というか菅原さんいいんですか、大地さんほっといて。」
「いーっていーって、別に毎日ほっといてる訳じゃなし。それに縁下が気がかりって言ったら大地も普通に納得するし。」
「えとそれは」
「そりゃ大地だって俺も行くとかなんとか言ってたけどさ、大地まで出て来ちゃったらそれ最終だろ。逆に縁下が困ると思うって言っといたよ。」
「何から何まで恩にきます。」
菅原は気にすんなとニッと笑い、でさと本題に入る。
「実際のとこ美沙ちゃんどうなの。」
「うつるからって部屋に入らせてもらえなくて昨日も今日も顔見てないのは本当です。ただ、昨日熱がひどくて夢でうなされてたらしくて。」
「可哀想に。」
「しかも母さんの話じゃいっぺん起きた時自分を他所にやらないでって急に泣きながら言ってきたらしいです。親父もその話聞いてて2人共今のとこは本気で美沙を手放すつもりはなさそうでした。」
「よかったじゃん。」
「はい。」
力は微笑んでふとその後の父との会話を思い出す。
「あーでもいや」
「どした。」
力はいつもよくやる困った笑顔でその、と呟いた。
「バレちゃってる可能性も出てきまして。」
「バレちゃってるって何が。」
言いながら菅原も途中で気がついたようだ。みるみるうちに顔がこわばる。
「え、何まさかお前らの仲。」
力は黙って頷いた。
「マジかよ、うわぁ。」
「親父に今はまだ兄妹でいろって釘刺すみたいに言われて。でも笑ってたからうっすら気づいてるんじゃないかなって。」
「さっすが縁下の親父さん。」
「下手すりゃ最初から俺と美沙が線越える可能性も考えてたのかもしれないです。」
恐るべしだなと菅原は言う。