第51章 【義妹の悪夢と義兄の動揺】
ボロボロ泣き続ける美沙を義母はいつかのようにぎゅっと抱きしめる。とんでもないと義母は強く言った。嫁に行くまでは他の人にはやるつもりはない、それなら初めから美沙の祖母が亡くなった後にわざわざ美沙のところに来なかったと言う。それどころか次そんな事を言ったら逆に叱るとまで言った。
「お母さん。」
呟く美沙の頭を義母は撫でた。いい子、という言い方が今頃学校にいるだろう誰かに似ている気もする。少し落ち着いてきて美沙は泣き止みだんだんまた睡魔がやってくる。美沙の意識が途切れがちになる。そして美沙の意識が完全に途切れる前に義母はほんの少し気になることを言った。
美沙は渡さない、特にあの人にはと。
時間は流れ、縁下力は部活が終わって帰宅した。伏せっている美沙が気になって母に聞くとまだ熱が下がらず食欲もろくにないらしい。まさかとは思うけど生きているのかとまで考えてしまうが両親には念のため風邪っぴきの部屋に入らないように言われていた。それにおそらくひどい有様になっているところを美沙も見られたくないだろうしと思って二階に上がった時は義妹の部屋のドアノブに手を伸ばしかけるのをかろうじて我慢する。
とりあえず着替えて父母と遅い夕食にしていたら母から美沙が何かおかしかったと聞かされた。どうしたのかと問う父に母は美沙が目を覚ましていきなり自分を他所にやらないでくれと懇願したと言う。父は驚き、力も危うく箸を取り落としそうになった。それに父が不審そうな顔をしたが何でもないふりをする。父は美沙の境遇から不安になるのは仕方ないと言い、きっと何度も言っているうちに本気で手放すつもりはない事をわかってくれるだろうと結ぶ。
「というか」
力はうっかり呟いた。
「今更手放されたら俺が困るんだけど。」
両親が一瞬キョトンとして力を見た。力はまずった、感づかれたかもしれないと思う。しかし両親は笑い出した。力もそう言うのなら美沙も安心だと言う。顔が熱くなるのを感じて力は大急ぎで食事を終えた。