第51章 【義妹の悪夢と義兄の動揺】
「いや」
力は思わず独りごちる。
「心配なのは病気の事じゃないのかもな。」
そんな力の独り言に成田は何かを察したのか詳細を聞く事はしなかった。
一方、熱暴走している頭が展開した世界で今美沙は螺旋階段を必死で登っていた。後ろから誰かが追ってくる。誰かはわからない、ただ捕まりたくない一心で寝巻き姿の美沙は振り返らずに終わりがあるかどうかわからない螺旋階段を登り続ける。息が上がる、足が少しずつ上がらなくなる、それでも逃げなと思い美沙は足を動かす。だが足はとうとう動かなくなり美沙は次の段に片足をかけたまま固まってしまう。追ってきていた誰かが美沙の手を掴む。美沙は嫌やと言ったつもりだが声が出ない。追っ手は美沙の手を無理矢理引っ張り、美沙はイヤイヤと首を横に振る。声は出ないが助けてと叫んだ。だが誰も来ない。
「嫌や嫌や嫌やっ。」
美沙は声なき叫びを上げて身をよじる。捕まえた誰かは美沙を引きずって階段を降りていく。
「助けて、お父さん、お母さんっ。」
引きずられながら美沙は最後に叫んだ。
「兄さんっ。」
美沙はまたガバッと起きた。辺りはすっかり慣れた縁下家の自分の部屋、今度も夢かと安堵するもやはり息は上がり震えもくる。両目がひどく濡れているのも感じる。きっと鏡を見たら酷い事になっているだろう。ほんの少ししてから義母が様子を見に来た。娘が明らかに泣いた跡があったから驚いた顔をしている。どうしたのか尋ねられて美沙はたまらず義母に抱きついた。
「お母さん、」
また涙を流しながら喉の痛みをおして美沙は言った。
「お願いやから私を他所にやらんといて。」
この時義母がぎょっとした顔をした事を美沙は知らない。
「私ずっとここんちの子でいたい。ずっと縁下美沙でおりたい。もう他には行きたない。1人も嫌や1人でなんか生きられへん死んでまう。」