第51章 【義妹の悪夢と義兄の動揺】
風邪のために過熱した頭は厄介だ。当人の意思などお構いなしに暴走して普段はそうそう意識しないあるいは意識したくないデータを読み込む。しかし眠い時は不完全なまま読み込むものなのか、結果頭の中で当人にも説明出来ない世界が展開する。
もやもやした薄暗い空間の中で誰かが言う、あ、薬丸だと。ランドセルを背負った美沙はどうせロクな事じゃないとスルーする。案の定こっち通るなブスと言われるが我慢して美沙は歩き続ける。何だあいつマジうぜえ顔こええし変な喋りだしつかあいつ関西弁じゃんおっかねえ、と向こうは好き勝手を言う。言葉については看過出来なかったのでつい言い返す。
「テレビで時たま見る柄悪いやつ、あんなもん普通の人言わないってばあちゃん言ってた。」
小学校の時から薬丸美沙は標準語で話すと大体こんな様子だった。言い返された相手は面白くなかったのか何だよ頭いいからってお高くとまりやがってと訳のわからないことを言い出す。
「先に変な事言ったのはそっちだろ、意味がわからない。」
返す言葉が見つからなかった相手は言うに事欠いて言った、うるせー捨て子の癖に。
「私は捨てられたんじゃない。親は死んだんだ。」
うそつけと別の誰かが言った、かーちゃんが言ってたぞ薬丸んちのとーちゃんはかーちゃんとお前捨てて逃げたんだって。
「誰かがおばさんに嘘教えたんじゃないのか。それか勘違いだ。」
比較的静かに言う美沙に相手は更に腹が立ったのかとうとう一番言ってはいけないことを言った、どうでもいいわクソババアの孫は早く死ねよ。瞬間的にブチっときた美沙は振り返りカッカッと勢いよく相手に突っ込んでいったかと思うとそのまま勢いを殺さずに手を上げていた。ほおのあたりを殴られた相手は軽く吹っ飛ぶ。
「謝れ。私はともかくばあちゃんを悪く言うのは許さない。」