第7章 【撮影依頼】
「今何て言うた。」
夜、自室にて、美沙は部活を終えて帰ってきた義兄の力に聞き返した。何となく以前も似たやりとりをした気がする。
「撮影要員よろしく。」
「おかしーやろっ。」
美沙は叫んだ。愛する義兄が相手といえどこればかりは突っ込まざるを得ない。
「何で部外者の私が練習試合の映像を撮る話になるんよっ。」
「人手が足りないんだ。」
「清水先輩と谷地さんは。」
「清水先輩達は他で忙しいんから余裕がないんだよ。」
「せやからてそこで私てやっぱりおかしいて。何でそんな話になったんよっ。」
「俺がせっかくだから映像で記録したらどうかって提案したらみんな賛成してくれたんだ。そんで誰が撮るかって話になってお前を推薦したらあっさりOKが出た。」
「何でやねんっ。」
「騒ぐんじゃない、ご近所迷惑だろ。」
美沙からすれば騒ぐなという方が無茶な相談だ。
「最終OK出したんは、澤村先輩と」
「武田先生ともちろん烏養さん。」
「よおコーチが許してくれはったなぁ。そもそもホンマに許してくれはったん。」
美沙は呟く。男子排球部でコーチをかってでている烏養繋心は一時期力が何かにつけて美沙を第二体育館に連れてくることについて若干苦い顔をしていた。いくら半分ボケでもそれを知らない訳ではない。義妹の問いに力はにっこり笑った。
「ホンマです。」
「あっさり了承されたんかどうかの疑いも拭(ぬぐ)えへんねんけど。」
「俺はゴリ押し出来るほど強くないよ。」
「うそやん。」
「何か言ったかい。」
「いや別に。」
美沙はモゴモゴ言った。義兄は基本的に柔らかい物腰だが何せよく暴走する西谷と田中を抑えられる人物だ、何気に半端ではない圧力を醸し出したりもするので美沙としてはぶっちゃけ強いと思う。が、今それを口にするとそれこそ義兄が魔王様状態になりそうな気がした。
「練習試合てどこさんと。」
「音駒。」
「日向がビャーッと走るすばしこい人がおるとか兄さんが妙に頭の回るセッターさんがおるとか言うてた血液ポエムのにゃんこチームか。」
「言っちゃいけないこと全部言ったな。おまけに血液ポエムてお前ね、どこでそんな表現覚えてくるんだ。」
美沙は言っていいものかどうか考えた。が、力はピンと来たようだ。