第7章 【撮影依頼】
「また動画サイトだな。」
「私はただの視聴者ですから無害です。」
「うp主(うぷぬし)の癖によく言うよ。」
「兄さんがうp主を覚えた。」
「誰のせいだと思ってるんだ、まったく。」
動画投稿者の事をアップロード主、つまりうp主と呼ぶ世界が一部あるのだがオタクである美沙がしょっちゅう口にする為に力の方が順応してしまったようだ。そんな力はふう、と息を吐く。
「まぁ血液ポエムって事実は置いといてさ」
「ちょ、兄さん。」
「頼まれてくれるよな。むしろお前に来てもらうって話に決まってる訳だけど。」
美沙は最後の抵抗としてこう言った。
「私、デジタルビデオカメラの扱い自信ない。」
力はへぇ、と言ったが顔は笑っていても目は笑っていない。
「最近うちにあるビデオカメラであれこれ撮影してはパソコンに繋いで映像取り込んで弄って動画用素材自作してるのはどこの誰だ。」
「誰やろ。」
最近美沙はいっぺんとぼけてみるというネタにハマっている。が、力はにっこり笑ってしかしそっぽを向いた義妹の顔を両手で挟み、強引に自分の方を向かせた。
「もうちょっと真面目に話を聞こうか。」
美沙は戦慄した。義兄から黒いオーラが見える。これ以上巫山戯(ふざけ)るといくら美沙でも寿命が縮みそうだ。そして力はそんな美沙に重ねて言った。
「頼むよ、美沙。谷地さん達を助けてやってくれないか。」
「うぐぅっ。」
友の名を出されて美沙は言葉に詰まった。これがとどめだった。
「ありがとう、じゃあ頼むね。」
「ううう、谷地さんを盾にしてからに、兄さんの意地悪、ひきょーもん、隠れドS。」
「もっと虐めてほしいのか、お前も好きだね。」
「だれ」
美沙は誰がや、と言おうとしたが最後まで言わせてもらえなかった。義兄に唇を重ねられ、塞がれてしまったのだ。うーと唸るが義兄は離してくれない。二度三度と繰り返し、いつの間にか乾き気味だった美沙の唇はうっすら濡れていた。
「兄さん。」
呟く美沙、そんな美沙の濡れた唇をそっと指で撫ぜながら力は言った。
「そうそう、当日は気をつけろよ、知らない人達がいっぱい来るからな。」
「誰も私をナンパしたりせえへんと思うけど。」