第48章 【まさか】
「美沙ちゃんに心当たりは。」
菅原に聞かれるも当然美沙は首を横に振る。ここで力はあ、と呟いた。ふと思い出してしまったのだ。
「美沙、お前の本当のお父さんって。」
「ばあちゃんからも親戚からもお母さんが亡くなったすぐ後に事故で亡くなったって聞いた。」
力に抱っこされたまま美沙は答える。
「せやけど」
「うん。」
「ばあちゃんからお母さんの話は聞くねん、けどお父さんの話がろくに出てこおへんかった。」
力はえ、と呟き菅原もおや、といった顔をする。美沙もそんな義兄達の様子に気づいたように付け加えた。
「いくらお母さんのお母さんやからって私のお父さんの話をせえへんのって変やない。」
確かにそれは変だと力は思ったし菅原も確かにと呟く。
「おまけにごく稀(まれ)に親戚が来る時があったんやけど、一緒に来よるちっちゃいいとこらが私の事ててなしごって言うてくるねん。」
「ちびっ子がいきなりそんなこと言うって。」
「どんな躾をされてたんだ。」
あまりな話に菅原がドン引きし、力も顔が引きつった。
「親の方が陰口叩いてたん何も知らんと真似してたんちゃう。」
さらりと美沙から口にされた重い言葉、力は今は深く考えないことにした。
「それにしてもおかしいな。」
呟く力に美沙もせやろ、と言う。
「私は最初っから親が2人とも亡くなってたんであってお父さんが先亡くなって片親とかお父さんが誰かわからんとかやないはずなんやけど。」
「そう、だよな。」
力はうーんと考える。
「縁下の親御さんはどうなの。」
「俺も、父さんも母さんも美沙の本当のお父さんの話を一切しないのが前から気になってはいました。母さんはしょっちゅう美沙を友達だった薬丸さんに似てるって言うけど、お父さんにはって話にならないんですよね。」
美沙もうんうんと頷く。
「ばあちゃんも私がお父さんの事聞こうとしたらめっちゃ機嫌悪なって何も言うてくれへんかった。結局、お墓まで持って行きはった勢いやね。」
ますます不思議な話だ。