第48章 【まさか】
とうとう縁下力とその義妹、美沙が兄妹の線を越えてしまっている事が烏野内部にも知れる事となり、その第一号は男子排球部副主将の菅原孝支となった。元々菅原は力が美沙をやたら構うのを面白がりつつも見守っていたがこれは力にとっても美沙にとっても少し心強いものがあった。
「そっか、そんな事が。」
菅原が呟いた。昼休み、菅原に仲が露見した時と同じ校舎裏、縁下力は壁にもたれて座り、足の間には義妹の美沙が義兄の胸に顔を埋めて座っている。菅原に見られているのがやはり恥ずかしいらしい。
「でもまた随分大胆な電話だったんだな、美沙ちゃんがこっち来てから結構経ったとこへ引き取りたいとか言い出すって。」
「ええちょっと、ふざけてるというか何というか。」
「親御さんは。」
「父さんも母さんも俺らには特に何も。盗み聞きしちゃったの気づいてないみたいなんで多分不安にさせるからって気遣ってくれたんだと思います。特に、美沙に。」
「そうだろうな。」
菅原は呟き、当の美沙は力のシャツをギュッと掴んでいる。脇の方をつかんでいるのは人目につきやすいところが皺(しわ)になってはいけないという配慮のつもりか。
「私、他には行かへんもん。」
モゴモゴ言う美沙の声は甘えたモードのそれである。
「お母さんはうちの子やって言うてくれたもん、せやから他には行かへんもん。」
「俺もそう思うよ、美沙。」
「うわーやっぱり新鮮だわ、こんな美沙ちゃん。」
クスクス笑う菅原を美沙は膨れっ面でじっと見る。
「他の人には内緒ですよ。特に月島。」
「何で月島。」
「すぐアホの子言うてくるから。」
「でも月島も最近美沙ちゃんに慣れてきたよな、な、縁下。」
「ええ、すっかりハンネ呼びも板についちゃったし。」
力は微笑み、それで、と話を元に戻す。
「ただ気になるのが、美沙がうちの子に」
「うちの嫁に」
「そんな訂正いりませんからっ。ともかくうちの子になったのをわかっててわざわざ電話してくるなんてどういう立場の人なのかなって。」
もっとも力が気にしても何かできるわけでもないが。