第46章 【不穏な電話】
部屋に飛び込んだ兄妹はドアにもたれ、そのままズルズルとへたり込み2人してハアハアと息をしていた。
「兄さん」
美沙が不安そうに言う。
「えらい話聞いちゃったな。」
力は息を整えようと努めながら呟く。さっきまで静かだった心臓が急にやかましくなった気がした。美沙は俯(うつむ)いて泣きそうな様子に見える。
「美沙。」
力は呼びかけて美沙の肩を抱こうすると美沙はガバッと自分から抱きついた。
「兄さん」
美沙は涙声だった。
「私嫌や。もう他にやられるの嫌。私ここの子でおりたい、兄さんの妹でおりたい。私は」
次に口した義妹の言葉、それは悲痛な願いだった。
「ずっと縁下美沙や。」
わかってるよ、と力は思う。お前はずっと俺の美沙だ。
「大丈夫だよ、美沙。」
力は泣きじゃくる義妹の頭を撫でながら言った。内心自分も穏やかではないがここで自分が騒ぐ訳にはいかない。
「さっきの聞いたろ、電話してきたのが誰だが知らないけど母さんはお前を渡さないって、自分達の娘だって言った。今更お前をどっかにやらないよ。」
美沙は鼻をすすりつつ黙って何度も頷く。
「もし最悪父さんと母さんがお前をまた他所にやるって言っても」
力は呟いた。
「俺は絶対反対する。いっそのこと、俺らが踏み越えちゃった事も話そう。」
逆効果かもしれないけどその時はその時だと力は思う。力の目から覚悟を決めた様子を見てとったらしい美沙はまた頷き、涙で力のシャツが濡れたのに気づいたのか少し顔を離す。が、力は元の位置に戻してやり更に強く抱きしめてやる。自分のシャツが濡れるくらい構うものか。そうして力は義妹が泣き止むまでそのまま一緒にいた。その間電話をかけてきたのは一体誰だろうかと考えていた。
激しく動揺したものの兄妹はとりあえずこの母の電話については時が来るまでは知らぬふりをする事にした。出来れば時が来ないことを祈りたかったけれど。
次章に続く