第47章 【外伝 菅原の祈りあるいは露見】
菅原孝支はその日の昼休み、昼食を終えてから何となく1人でフラフラしたくなって校舎の裏側に向かっていた。屋上でも良かったのだが屋上は意外と誰かがいて人目が多い。校舎の裏側ならそうそう人はいないだろうと思って行ったら見えづらい木々の向こう側、排球部の後輩である縁下力と思われる頭がチラと見える。ちょっとおどかしてやろうといたずら心を起こし、足音を忍ばせてそっと近づいた。
ここでまさかああなろうとは思わなかったと何年か後になって菅原は語る。
「あ。」
「うっ。」
菅原に気づいた力が間抜けな声を上げた。次にご存知力の妹、正確には義妹の美沙が唸った。
「えんの、し、た」
疑問形で言う菅原の言葉は途切れまくっていた。
目の前にとんでもない光景が広がっていた。
縁下兄妹は2人して座っていた。それはいい。問題はその体勢だ。美沙は兄の両足の間にちょこんと座っていた。その美沙を兄の力は思い切り抱っこし、美沙もまた兄にくっついているのである。
普通の兄妹の体勢とは言い難い。
たちまちのうちに空気が凍る。縁下兄妹はもちろん固まり、菅原も顔が引きつっている。今この空気の中に羽虫でも飛んで来ようものなら一瞬で凍結し落ちるかもしれない。そんな沈黙が続くことしばし。
「えーと、」
先に口を開いたのは菅原だった。
「何、お前ら、そーなっちゃってたの。」
美沙は恥ずかしさのあまりか力の肩に顔を埋め、力はそんな美沙の頭を撫でてやりながら天を仰いでため息を吐いた。
「実は2人共踏み越えてました。」
観念したように力が呟いた。またしばし沈黙が続いた。
「そっかぁ、いつかはとは思ってたけどもうなってたのかぁ。」
少し落ち着いてから菅原は言って力の横に腰を下ろした。
「思ってたんですか。」
「そりゃお前、あんだけ美沙ちゃんにべったりで美沙ちゃんも兄貴にひっつきっ放しだったら誰だって思うわ。こないだの指輪事件で西谷とか日向もお前がいつか美沙ちゃん嫁にするって普通に思い始めたし。」
後は影山もだな、と菅原はしれっと付け加え、ニヤリとする。