第45章 【不意打ち】
「いい子だな。ところで、」
抵抗しなくなった美沙の頭を撫でながら力がふと言った。
「抱っこ癖がなんだって。」
美沙はうぐっと唸るが力の前で隠し事をできたためしはほぼない。先程水を飲みに行った時のことを話す。
「へえ、母さんが。確かにお前がおばあさんもなくしたって聞いた時引き取るって一番頑張ってたらしいけど。」
「ありがたい話やわ。」
「何でなのかわからないけどな。」
「そーいえば」
ふと美沙は思い出す。縁下夫人は美沙と祖母の元に来る度に美沙のことをしょっちゅうあの子、つまり美沙の実母によく似ていると言っていた。もしかしたら親友だったという実母と自分が多少重なって見えるのかもしれない。
「ありそうだな。」
力は笑った。
「だとすれば俺本当ラッキーだな、おかげでお前といられるんだから。」
しかし義兄とこっそり一線を越えてしまった点についてはやはり美沙としては胸が痛む。
「ひょっとしたらさ、」
心配する美沙に力は言った。
「意外とその方が母さん的にはいいのかも。」
「まままままた何をぶっ飛んだことを、兄さん。菅原先輩とか成田先輩とか木下先輩が心配しはるで。あと、東峰先輩が今度こそ倒れるかも。」
しかし力はしれっとしてだってさ、と続ける。
「俺とずっと一緒ならお前はどこにも行かないだろ。」
美沙は何かおかしいと言いかけたがそれを遮(さえぎ)るようにまた義兄に唇を重ねられてしまった。
「俺なしでいられるなら話は別だけど。」
義兄はニヤリとしながら言っているに違いないと美沙は思った。
「それは兄さんもやん、いっつもいっつもずっこい。」
やられっぱなしはアレなので多少反撃すると力はああ、と呟いた。
「そうだな。」
そうして力は美沙の首筋を指先で撫ぜる。
「ここまで来たんだ、今更お前取り上げられたら死ねる。」
美沙はそれは自分も死ねると思いながらも眠気が襲ってきてそのまま意識を手放した。
次章に続く