第45章 【不意打ち】
小さな仏壇、小さな祖母の遺影の前に烏野のではない制服を着た自分が正座している。目の前には親戚でもなんでもない、でも実母の命日になると必ずやってきていた夫妻が座っている。夫妻は一瞬ためらい、しかし逸らしがちな美沙の視線を捉えて言った、うちに来てほしい、と。現実には激しく悩んだはずなのに自分は即答していた、行きます、行かせてください、と。
縁下美沙はガバッと起き上がった。
「あーあ。」
時刻はまだ午前2時、また面倒なタイミングで目が覚めたものだ。
「何で今更あんな夢。」
直前まで見ていたのは薬丸美沙だった頃、育ててくれた祖母が亡くなって後に縁下夫妻がやってきた時の夢だ。今の義父母である縁下夫妻は夫人が美沙の実母と友人であり美沙が祖母と暮らしていた頃からよく夫と共に母の命日に美沙と祖母の元を訪れていた。美沙の血縁だけあって人見知りで偏屈なところもあった祖母がこの夫妻には心を許していたのは今でも印象的で、その影響か美沙も夫妻とはちょくちょく言葉を交わしていたものである。その後祖母が亡くなり、まさか縁下夫妻に望まれて養子になるとは思わなかったわけだが。
それはともかくとして変な時間に目が覚めた美沙は喉の渇きを覚えた。水分不足はよくないと祖母によく言われていた、美沙はノロノロとベッドから這い出し部屋を出て台所に行く。なるべく音を立てないようにしていたつもりだが、コップに水を汲んでいたら義母がやってきた。案の定、どうしたのかと聞かれる。
「変な時間に目え覚めてもて喉が渇いたもんやから。」
義母はそう、と呟き、もししんどいなら無理しないようにと言う。
「うん、ありがとう、お母さん。」
美沙は言って水を飲み干し、さて部屋に戻ろうとしたら思わぬことが起きた。義母に抱っこされたのである。義母はそうして美沙の頭を撫でる。どきりとしたと同時に誰かに似てる、と美沙は思った。その誰かは今頃美沙の隣の部屋で部活の疲れを取るべくぐっすり眠っているだろう。
愛があるのは理解していた美沙はされるがままになっていたが義母はハッとしてごめんなさいと呟き、美沙を離す。美沙はお休みなさい、と、言って部屋に戻った。