第44章 【妹貸し出し 後日】

「それはさすがに可哀想ですよ、あんなヒョロヒョロの子が及川さんにとっつかまって1人で逃げられますかね。」
「お、おう、そりゃあそうだ。となるとやっぱりおめえだクソ川っ、んでこっそり逃げよーとすんじゃねえっ。」
「だって岩ちゃん殴る気でしょっ。」
「残念だな、蹴り入れるつもりだったわ。」
「どっちにしても暴力っ。自分がモテないからって僻(ひが)まないでよねっ。」
「いやあんたキモい。」
「狂犬ちゃんまでっ。」
「京谷、良く言った。」
「ウス。」
「松川聞いたか、京谷まで突っ込みだしたぞ。」
「聞いたよ、これはひどいな。というか勝手に抱っこしたって、美沙さんのおにーちゃん知ってんの。」
「あ、俺自分で話した。」
「更にタチがわりーわこのクソ川っおめーはいっぺん地球半周回って埋もれてこいっ。」
「どこでそんな言い回し覚えたのさ岩ちゃんの癖にっ。別にいーじゃん、縁下君は迷子とかで1人にすんなとしかいってなかったし1日借りてたんだしっ、許可取るのに難儀した分の元取らなきゃ損じゃんかっ。」
「何が元を取るだまったくもって意味がわかんねーわっ、とりあえず今度こそアルコールスプレーすんぞっ家から持ってくっからなっ。」
「清廉潔白(せいれんけっぱく)な及川さんを汚物扱いしないでくれるっ。」
「清廉潔白の意味目の前の板で調べろこのボケ川っ。」

カンカンに怒って喚き散らす岩泉を見ながら渡がなぁ、と呟いた。

「岩泉さんの悪口のバリエーションが増えてる気がするんだけど。」

聞こえていた矢巾が応える。

「気のせいじゃないな。ただ、うーん。」
「どうしたんだ。」
「どーも縁下美沙さんが間接的に噛んでる気がする。」
「マジか。」
「あ、あのっ」

ここで金田一がワイワイガヤガヤになった空気をぶった切って及川に言った。

「何かよくわかんないスけど、及川さん、本当に楽しかったんですね。」

岩泉に首を絞められかけていた及川は裏表のない金田一の言葉にふ、と笑った。

「そー見える。」
「はい。何か、その、今までの彼女さんの時と違う感じがします。」

真面目に言う金田一、及川はやれやれと首を横に振った。

「バレバレだね。」