第43章 【妹貸し出し当日 その4】
及川は完全に美沙の抗議をスルー、美沙は身じろぎするがゴンドラの中であまり派手に動いてはいけないことくらいは何となくわかっている。必然的に動きは控えめになった。
「お願い、美沙ちゃん。」
急にまた低めの真面目な声で言われて美沙は固まった。
「もうちょっとだけこうさせて。」
「及川さんが私なんか抱っこしてもしゃあないんちゃいますのん。」
固まりつつも多少美沙は抵抗する。
「悪いけどそれは美沙ちゃんが決める事じゃないよ。」
及川はふふと笑う。義兄の力以外に言われてもよくわからないと美沙は思いつつもとりあえずおとなしくしていた。義兄も許可の上で来ているのだ、サービスだと思うことにする。これが義兄の力なら甘えたモードに突入したいところだったけど。
「ホント優しいね、美沙ちゃん。」
「別に優しない。」
「優しくない子があのおにーちゃんの事守ろうとして友達助けようとして挙句に俺の事で怒ってくれる訳ないでしょ、そんなの飛雄でもわかるよ。」
「影山カワイソス。」
呟いて美沙はぼうっと景色を見つめ続ける。どんどん暗くなっていく観覧車の外、景色は美しいがそろそろ義父母が心配しているかもしれない。いやそれ以上に義兄の力だ。今の所ガジェットケースに入ったスマホは振動していないがもしかすると自室で義妹はまだかとオロオロしているかもしれない。
「おにーちゃんの事考えてるでしょ。」
及川に言われて美沙はギクリと体を震わせた。
「すみません。」
「謝んなくていいよ、俺だって君らの状況知ってて無理言った訳だし。」
「んと。」
「大丈夫だよ、ちゃんと縁下君とこに帰したげるから。」
その代わり下に降りるまでこのままね、と及川は言い、本当に観覧車のゴンドラが一番下に戻るまで美沙を離そうとしなかった。
義妹がいない為に悶々と過ごしていた縁下力はスマホの振動音を聞いてベッドから飛び起きた。メッセージアプリにテキストメッセージが来ている。差出人は"美沙"だ。
"駅についた"
力は即刻返信した。
"迎えに行く"
すぐに美沙から驚いているキノコキャラのスタンプが返ってくる。
"及川さんも途中まで一緒やで"
"迎 え に 行 く か ら"