第43章 【妹貸し出し当日 その4】
「君は、例えば岩ちゃんとか下手したらウシワカちゃんが同じ事になっても同じように怒るのかな。」
「そうすると思います。」
美沙は即答した。思うと言ったものの内心はそうする自分しか思い浮かんでいない。及川も察したようだった。
「流石っ。」
「ちょ、あかんあかんっ。」
いきなり抱っこされた。それも今回は真正面だったので美沙はジタバタした。一体どうしたことだろうと美沙は思う。義兄が義父母の目を盗んで頻繁にやるのは現在の関係上不思議はないとして何故毎度及川にまでやられるのか。
「えー、何でいーじゃん。」
「そういうんはホンマに好きな子にやったげてください。」
及川はムッとした顔をし、わかっていない美沙は逆に何でやと思う。
「おにーちゃんは今日抱っこしちゃダメって言わなかったもん。」
「待って待って、何かちゃう気がする。多分兄さんは後で聞いたら怒ると思う。」
「いーじゃん、今日は1日美沙ちゃん借りてるもーん。だから触れるうちに触る。」
「イミフ(意味不明)すぎるっ、それにここお外っ。」
及川は大丈夫だよ、と言った。
「見てごらん、周り。カップルでいちゃついてる人いっぱいいるよ。」
確かにそうだがそういう問題ではない、美沙はなおも抵抗したが及川は聞かず義兄も岩泉もいない状況の為逃げることは叶わなかった。あまりにも恥ずかしいので顔があげられず及川の胸に埋める形になる。しかしそれが余計に及川に喜ばれることになっていたことは気づいていない。
「まーでも縁下君が心配するのもわかるなー、今更だけど。」
ここで及川はへらっとした調子で言った。
「へ。」
「狂犬ちゃんも言ってたし。」
「狂犬てもしやハミチキ大好きの京谷さん。」
「アハハ、やっぱすぐわかるんだね。とにかく狂犬ちゃんもさ、美沙ちゃんは疑わない変な子って言ってた。」
「及川さんすみません、言うてはる事がいまいちようわからんです。」
おずおずと尋ねる美沙に及川はつまりぃ、と言った。
「人の悪意に鈍感だよねって話。しかも美沙ちゃんは階段から落とされたりひどい奴に蹴られたりとかもしてるのに。」
「私は」
「一つ、覚えときなよ。」
及川はゆっくりと言った。