第42章 【妹貸し出し当日 その3】
美沙の好きなキャラがない。売り切れではなくてそもそも製造されていないようだ。マイナーなので仕方がないのか。
「すみません及川さん、他のコーナー行ってもいいですか。」
「いいよー。」
及川はノリノリであるが蔑(さげす)まれるよりは余程いい。次に美沙が行ったのはカード以外のグッズが置いてあるコーナーだ。ここでも美沙は目当ての作品の目当てのキャラのやつがないか探す。
「これあれだよね、」
及川が言った。
「最近人気のバレーボールの漫画。」
「そうです、兄さんがやってるんでつい読んでみたら話が面白くて。」
「ハハーン、美沙ちゃん縁下君の話と併せてこれでポジションとか覚えたでしょ。」
「ポジションとかは兄さんから聞いて覚えたんが先やもん。」
「あ、今の顔可愛い。」
「はいはい。」
「スルーしないでっ。」
阿呆なことを言う及川を置いておいて美沙はとりあえず目当てのキャラの物が一つでもないか探す。今の所見当たらない。その間にもやはり人目を感じるし挙げ句の果てには話す声も聞こえた。ちょあの人超イケメン、隣にいる人彼女かな、まさか、とまあ好き勝手である。ここまでは良かった。が、別の誰かが言うのが聞こえた、何かあの女の声聞き覚えあると。なまじスマホでライブ配信をしている身である美沙は落ち着かなくなる。
黙って聞いていれば向こうは言いたい放題、どっかの生配信で聞いた気がすんだよなあの可愛くねーピザ声などと言い出し、相手もうわ女の配信者でピザ声ってないわーなどと言い出す。みんながみんなアイドルとか声優さんみたいな可愛い系の声やったらそっちの方が不自然やんと美沙は思うし正直突撃したい気分だ。
しかし向こうがハンドルネームままコの事を言っているなら知らない奴に正体をバラすようなものだし店舗内で揉めるわけにも行かない。悶々とする美沙、いまだ離してもらえない片手をモゾモゾさせていた為にそれが及川に伝わったらしい。
「美沙ちゃん」
通常より少し低い声で及川が囁いた。
「いい子だから大人しくしてて。君を1人にしたら俺縁下君にマジで殺されちゃう。」
言って及川は声のした方を振り返った。途端にコソコソ話していた連中が大変気まずそうにこれまたコソコソと去っていく。