第42章 【妹貸し出し当日 その3】
「兄さんも似たような事言うてた。」
「縁下君が。」
疑問形で言う及川に美沙は頷く。
「そんな劣等感持たんでええって、酷い事言うてきた奴はやっかんでた奴もきっとおったんやって。」
及川はあはは、と笑う。
「流石、おにーちゃんはよく分かってるじゃん。」
「兄さんのは欲目が大きい気ぃするんやけど。」
「美沙ちゃんはたまにお馬鹿さんだね。」
「理数と社会の成績が悪い事は認めます。」
「そうじゃなくて」
及川は目を細める。
「いくら縁下君が線踏み越えてまで君を溺愛してるからってさ、本当に思ってなかったらそこまで言わないでしょ。縁下君は賢いから触れたらまずい事は当たり障りない事で済ますと思うよ。やっかんでた奴もいたんじゃないかなんて思ってなかったら言わないって。」
「せやろ、か。」
言葉につまった美沙は代わりにパンを口にする。及川はクスリと笑い突如別の事を聞いてきた。
「そういや美沙ちゃん、唇何か塗ってんの。」
「リップクリーム塗ってるけど色ついてへん奴です。」
「そーなんだ。」
「そういや小学校の時によう口紅塗ってるて間違えられた事ありました。中学ん時も何回かあったかな。」
それを聞いてやはり微笑む及川の意図が読めず美沙は首を傾げるしかなかった。
そんなこんなで食事を終えて2人は店を出る。
「あんだけ頑(かたく)なに自分で払うって言い張る子も初めてだった。」
及川が呟く。
「だってご覧の通り私めっちゃ食べるから悪いですやん。」
「ホント遠慮しぃだね、もうちょっと我儘(わがまま)言ってもいいんじゃないの。それこそ縁下君に言われない。」
「いやあの私只でさえ兄さんに甘やかされてるんでこれ以上我儘言うたらどないしょうもあらへん。」
「それが遠慮しぃなんだってー。縁下君の甘やかしなんてしれてるでしょ、どっちかっていうと躾の方が多いんじゃない。」
「私はモノホンのペットかっ。」
「犬って感じじゃないとは思うけどね。躾云々除いたらどっちかってえとハムスターかな。」
「出来ればジャンガリアンのサファイアあたりでお願いします。」
「細かいな。」
及川は美沙ちゃんの頭には何が入ってるんだろ、と面白がる。
「で、美術館は行ったけど他にも行きたいところがあるって言ってなかった。」
「えと」