第41章 【妹貸し出し当日 その2】
作品から目を離さずにそんな会話をしていると近くにいた老夫婦がクスクスと笑っていた。夫人の方が面白い彼女さんね、と言ってきたため美沙は大慌てで首をブンブンふる。が、やはりと言うべきか及川は動じずに乗っかった。
「いいでしょ、この子。一緒にいると飽きないんですよー。」
「こ、こらっ、それに私は」
彼女ちゃうと美沙は言おうとしたが及川が握ったままの美沙の手に少し力を入れたので黙らざるを得なかった。困って黙ってしまう美沙をよそに及川は老夫婦としばし会話をする。
「ああ、この子すんごい人見知りなんです、俺も慣れてもらうまで時間かかって。」
老夫婦は及川の話に食いついている。
「でもこう見えて凄く優しい子ですよ。」
普通やと小さく呟く美沙に及川は黙んなさい、とそれこそ兄が言うように言って話を続ける。
「いや、確か違ったと思いますけど、美沙ちゃんどうだったっけ。」
「私の出身はこの辺です。育ててくれた祖母が瀬戸内海の人だったのでどうしても。」
老夫婦は美沙に何かあったのかという目を向ける。
「両親が生まれた時にはもう亡くなってまして。」
慎重に美沙は言い、老夫婦は保護者がいなくなった美沙が今どうしているのか聞きたがった。
「母の友人だった人の所に厄介になってます。決して二階に厄介で十戒の身ではないです。」
及川と老夫婦が控えめに吹き出した。
「美沙ちゃん、それ何のネタ。」
「今は亡き漫才師さんのネタ。」
「だから美沙ちゃんは今時じゃないんだよ、そこがいいんだけど。」
老夫婦は楽しそうだと感想を述べ、きっとお嬢さんは今幸せなんだろうと結んだ。
「そりゃあ、ね。」
及川はふふふと笑った。
「この子のおにーちゃんが滅茶苦茶可愛がってますから。」
「ちょ、いらんこと言わんでええって。」
しかし及川は敢えて発言を撤回せず、美沙は見知らぬ老夫婦に多大なる誤解をされたままになってしまった。