第41章 【妹貸し出し当日 その2】
縁下美沙と及川徹の2人は館内の順路を進む。やはり背丈があり見た目が良い及川はちょくちょく周囲の観覧者の目をひく。こいつは歩く彫刻なのか。
「美沙ちゃん、何で離れて歩いてるの。」
「いや別に。」
まさか及川に集中した後自分に注がれる視線が痛くていたたまれないなどとは言えない。
「美沙ちゃんてば変なの。」
「前からです。」
「そーじゃなくてさ」
及川が呟く。
「いつもなら見られたって知らんがなって顔してる癖に何で今日は目泳いでるのさ。」
「私かて遠慮ってもんがあります。」
「とりあえずこっちおいで。」
危うく美沙はふぎゃああっと言いそうになった。及川が手を握ってきたのである。首を横に振る美沙、しかし及川はどっかの誰かのようにそれを拒否した。
「駄目、迷子になるでしょ。」
「ならへんて、ちゅうか兄さんみたいな事言わんといて。」
「縁下君言ってるんだ。」
「すぐ車に轢(ひ)かれそうになったり人混みに押し流されるからて。」
「安定の過保護ぶりだなぁ。」
及川はくすりと笑う。
「でもそれじゃ尚更駄目だね。」
「何で。」
「縁下君に厳命されてるから、美沙ちゃんを1人にするなって。でないとデートさせないってさ。」
「なななな何を阿呆な、兄さん大丈夫かいな。」
美沙はガラスケースの向こうの目も覚めるような美しい、青い羽の鳥達が描かれた作品から目を離さないまま呟いた。
更に2人は進む。
「あ、」
「今度は何かな。」
「及川さん、見てください、あのソテツの絵。」
「わお、鮮やかだね。」
描かれているのはソテツだけではない。クワズイモという植物の大きな葉が画面の上まで伸びていて、濃い緑を基調としたところに紅や桃色の鮮やかな花が目をひく。
「あれもすごい。」
次に美沙はカラフルなブダイが並んだ絵に飛びついた。
「何これ、何か生きてるんですけど。」
及川が横で呟く。
「ホント、これ描いた人が日本画家って信じらんない。」
「モダンですねぇ。」
「美沙ちゃん言い方古っ。」
「失敬な、レトロ言うてください。」
「物は言いようだねっ、流石美沙ちゃんっ。」