第40章 【妹貸し出し当日 その1】
そうやって電車に乗ってやってきたのは、やはりというべきか美術館だった。
「俺こういうとこ初めてなんだよね、何かドキドキする。」
「そうなんですか。」
及川でもそう思うのかと美沙は意外に思うが今はそれどころではない。バッグをゴソゴソしてチケットを取り出し、うち1枚を及川に渡す。
「え、え。」
戸惑う及川に美沙はしれっと言った。
「お母さんが他所からもろた招待券、を更に私に回してくれました。」
「えーと、流石にこれは縁下君にまわすべきだったんじゃないの。」
「兄さんの分も確保済です。これ会期長いんでまた一緒に行きます。」
「へ、へぇ。」
こんな感じに戸惑う及川は珍しい。影山あたりが見ると驚くかもしれない。
「ほな行きましょか。」
「アハハ、慣れてるねー。俺リードされちゃってるじゃん。」
「へ。」
何も考えていなかった美沙は首を傾げるが及川はもうこの子は、と呟くだけだった。
「入るんでしょ。」
「え、ああ、はい。」
何かようわからんと思いつつも美沙は及川と一緒に入館した。
及川徹は今まで何度か女子と付き合ってはどこかに行った。大抵は遊園地みたいな娯楽施設で、あとは水族館や動物園、映画館、よくあることだ。もはやそういう所には慣れていて付き合ってくれた相手も可愛い子ばかりだけど失礼ながらだんだんパターン化してきてあまり新鮮味がなかった。しかし世間的には可愛くないと分類されてどこか普通ではない、しかも他の男の彼女である女子(表向きは兄妹だが義理である上に一線踏み越えている)と出かけて初めて美術館に足を踏み入れた。幼馴染である岩泉は行き先を知った時烏野6番の妹は年寄りかといった意味の事を言った。実際、中は高齢の観覧者が多い。それでも静かで厳かな雰囲気は及川にとってどこか新鮮なものを与えた。
「あ。」
展示室に入った瞬間、早速美沙が展示物に食いつく。そのまま美沙はその絵画を見つめてすぐには動かない。薄暗い展示室、あまり表情が変わらない美沙、それでも及川は美沙が深く感動してそれを見ているのがわかる。自分も後ろから覗き込んでみた。