第40章 【妹貸し出し当日 その1】
「ずっこい。」
美沙は膨れた。
「教えてぇな。」
「やだ。」
「ずっこい、意地悪、岩泉さんに言うたる。」
「こらっ、どさくさに紛れて脅しちゃいけませんっ。」
及川が思いもかけず反応したので美沙は力が抜け、えへへへへと笑った。
「あかんねや、やっぱり岩泉さんには弱いんや。」
「岩ちゃんはねー、付き合い長いからさ、頭上がらないっていうかなんて言うか。」
「うん、ちょっとだけやけど見ててそない思た。」
でもさと及川は言った。
「超絶信頼関係って言ったらあってたまるかって。」
「岩泉さんはツンデレやな、せやけどどうせ及川さんのこっちゃ、知ってはるんでしょ。」
ここで緊張がいい感じにほぐれた美沙は及川に目を合わせたのだが及川にびっくりした顔をされて戸惑う。
「私日本語おかしかったですか。」
及川は首を横に振った。
「今初めて美沙ちゃんにまともに目見てもらった気がする。」
「いや別に私及川さんにだけ目ぇ逸らしてる訳や」
「知ってるよ。それはおにーちゃんも一緒かな。」
「一緒ですよ、何となく目を合わせるのが苦手で。基本相手関係あらへん。」
安心したと及川は嬉しそうに呟いた。
「そうそう、お誘いといえば。」
「はい。」
「美沙ちゃんの方からこれ行きたいって言ってきてくれたのも意外だったかな。」
「そうなんですか。」
「うん。美沙ちゃんあんまお出かけしないってきーてたからさ、行きたいとこがよくわかんないって言われるとばっかり思ってた。」
「ああ、うう、まあそない思われてもしゃあない、かな。」
美沙は困ってしまい側頭部を軽くかきながら俯く。
「引きましたか。」
「どうして。」
「普通高校生が自ら行くとこやないと思うんで。」
「確かにそうかもしれないけど、別に。美沙ちゃんが行きたいなら付き合うよ。あ、岩ちゃんはお年寄りみたいって言ってたけど。」
「まあ岩泉さんはそない言わはるでしょうね。」
美沙は呟く。何となく岩泉が呆れたような顔で言う様が目に浮かぶ気がした。