第40章 【妹貸し出し当日 その1】
「今日はこれ禁止。」
いきなり美沙の手首を取る。手首には義兄の力からもらったブレスレットがついていた。美沙が困惑してもたもたしている間に及川はまず美沙の利き手でない方のブレスレットに指をかけて引っ張った。ちぎれては困るので美沙は手をすぼめ、それはあっさりと引き抜かれる。次に及川は残った方の手を取った。そちらにつけていたのは力がサイズを合わせた方だ。えと、とやはり困る美沙にしかし及川は取り合ってくれず留め金に爪をかける。
「千切(ちぎ)れちゃうよ、モゾモゾしないの。」
そう言われてしまうと情けないが美沙は弱い。留め金が外され、ブレスレットがするりと滑る。美沙は慌てて滑ったブレスレットを掴み先に外された方も及川に返してもらう。
「何でわざわざ。」
外されたブレスレットをバッグにしまいながら美沙は尋ねた。
「だって何か腹立つ、今日は俺とデートなのにおにーちゃんの鎖ついてるの。」
なんだかよくわからないがしかしと美沙は思う。
「それは、んと、私が気が利かん奴って事に。」
「言ってない、もう真面目だね。ほら電車乗るよー。」
先に歩く及川に美沙は慌てて小走りについていく。バレーボールの試合でも他校の女子にとっ捕まるくらい見目の良さが際立つ及川、今も周囲の女性がチラチラ及川を見てから側にいる美沙を胡散臭そうに見る。やはり私は見慣れないペットみたいなポジションではと美沙は思った。
そしてまずは電車の中である。
「落ち着かないみたいだね。」
隣に座り目を合わせない美沙に及川は言った。
「兄さん以外の男子と2人で出かけたことないから。」
義兄と似た匂いのする人にお茶でもと言われてうっかりついていったことはあるが。
「でもお誘いに乗ってくれたよね、何で。」
「その、わざわざ兄さんに連絡してまでのことやったし、私ももうちょっと外でなあかんかなって思って、及川さんは知らん人やないし。」
あ、とここで美沙は今になって気付いた。
「私みたいなオタクと出かけて及川さんがどんな風に反応するんか知りたいなとも思いました。」
及川は楽しそうにふふふと笑う。どうしたのか聞くが及川は内緒と言って答えない。