第40章 【妹貸し出し当日 その1】
そうして出かける当日のことだ。相手が及川だったので美沙は服装について少し悩んだがどのみち自分の手持ちの範囲しかないのだからと開き直って義兄の力と出かける時とあまり変わらない形に着替えた。家を出る前に力が部屋から出てきて美沙は服装をチェックされる。
「うん、今日は大丈夫。いい感じだな。」
「よっしゃ。」
「色柄の組み合わせが変じゃないってことは今日は寝ぼけてないな。」
「何という扱い。」
言って美沙はうぐぐと唸り、力に笑われる。
「日が照ってるな、日傘さしてけよ。」
「もう持っとうよ。」
「そうそう、中は冷房きついかもしれないから。はい、ストール。」
「あ、うん、ありがと。」
「あと、及川さんが変なことしてくるようなら連絡するように。」
「いやあの兄さん」
「まぁそれはともかく」
相変わらずの過度な世話焼きぶりを経て義父母の目が届いていない隙を狙ったかのように力が一瞬美沙を抱き締めた。
「気をつけてな。」
「うん。」
「じゃあ、いってらっしゃい。」
「いってきまーす。」
義兄に見送られて美沙は家を出た。
家を出て美沙は待ち合わせの場所になっている駅の前にいた。少し早かったなと思いつつスマホでSNSのゲームをしながら待つことしばし。
「あ、美沙ちゃん。」
聞き覚えのあるしかし義兄と比べたら若干ノリの軽い声がして美沙は素早くスマホを肩から下げたガジェットケースにしまう。
「あ、及川さん。おはよーございます。」
「おはよう。ごめんね、待ったかな。」
「いや、全然。」
美沙は視線を逸らして答える。自分の意思で誘いに応じたもののやはり改めると恥ずかしくなってきた。こそっと及川を上目で見ると大変満足そうに目を細めて美沙を見つめている。
「何か森ガールっぽい。」
「えと。」
美沙は褒められてるのか何なのかわからず俯く。
「似合ってるよ、可愛い。」
「どうも。」
美沙はそうとしか言えない。
「あ、しかもスマホケースが違う。」
「お出かけ用です。」
「へえ、使い分けてるんだ。意外とお洒落さんだね。」
及川はクスクスと笑い、ぴっとガジェットケースの紐をつまむ。ここであ、と及川は呟いた。